渇愛の契り~絶対王と囚われの花嫁~
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その夜、やけに外が騒がしかった。
誰かが階段を駆け上がってくる足音が聞こえて、カルデアはベッドに横たえていた体を起こすと、扉を見つめる。
足音が部屋の前で止まり、「王妃様!」と聞き覚えのある声がカルデアを呼んだ。
(この声は……トールさんだわ)
「トールさん、どうかしましたか?」
「王妃様、よく聞いてくれ。イナダール国に、ナディア国の軍勢が攻め込んできやがった」
「なんですって……!」
ここ、南方の国イナーダルよりさらに南、海を越えた先に位置する大国ナディア。
ナディアの国王は、抗争ばかりが頻発する大陸をわずか一年で平定した英雄王とも呼ばれている。
「なぜ、そのような事に……」
(私は王妃でありながら、この国の情勢を知らないなんて……。今、民たちは不安でしかたないはずなのに……)
塔に幽閉されているため、外の情報を知る術が、今のカルデアにはないのが現状だった。
「国王様は、ナディア国の貿易船を捕虜として捕らえたらしい」
「なぜ、そのような愚かな真似を!?」
「イナダール国の海域に侵入したとか。詳しい事はわからないけどな」
侵入したことへの警告は、確かに必要だろう。
今後、ナディア国がイナダール国に攻め入らないための抑止力になる。
でも、それがただ気に触っただけで、貿易船を捕虜としたのだとすれば、話は別だ。
戦争の火種となってしまう。
それで苦しむのは、国でも王家でもなく、力を持たない民なのだ。