渇愛の契り~絶対王と囚われの花嫁~
(この国の兵力がどれほどなのか、私にはわからないけれど……この国の人間が傷つくことには変わりないわ)
望んで嫁いだわけではないが、カルデアにとってイナダール国は、第二の母国になる。
血の繋がりで親姉弟を憎めないように、この国の行く末を心配するのは、当たり前のことなのだ。
「ナディア国王は、その船と船員を救うために、攻め込んできたとか」
「当然の理由ですね」
むしろ、民のために兵を起こすこと、それ自体がとても気高い行為だと、カルデアは感心していた。
「だけどな、この国は、ナディアのような大国には敵わないだろう。兵力差が尋常じゃない」
「トールさん……」
「この部屋の鍵は、開けておく」
(……え、今、トールさんはなんて言ったのかしら?間違いでなければ、鍵を開けると……)
カルデアはトールの提案に混乱した。
「俺はここの鍵を開けて、隊に戻る。城の裏門に、馬を一頭用意してあるから、この混乱に混ざって城を抜け出しな」
「そんなことをしたら、トールさんが!」
「国が滅びるって時に、王妃様のことなんて考えていないさ、あの国王は。だから、王妃様くらいは、幸せになってくれよ」
トールの死を覚悟したような真剣な声に、カルデアは目に熱いものがこみ上げてくるのを、堪えきれなかった。