渇愛の契り~絶対王と囚われの花嫁~
「トールさん、いけません、私はここに残ります!」
「優しい王妃様、これは城の人間の願いなんだよ」
扉は閉じたままだが、ガチャリという音がして、もう鍵が開いていることがわかる。
そして、扉の前から足音が遠ざかり、トールが戦の中へと戻って行った事を悟ると、カルデアは大粒の涙を流した。
「なぜっ……なぜ、私はなんのための王妃なのですか!?」
(王妃という肩書きだけで守られる。救わなければいけない民に救われている私は、なんと無力なことでしょう……)
カルデアは、冷たい石の床に膝をついて、泣き続けた。
扉は開いている、鍵も小窓に置かれているから、足枷を外して逃げることは出来た。
それでも、カルデアは逃げることをしなかった。
「たとえ、名ばかりの王妃であろうと、私はこの国に嫁いだのです。あなた方を、置き去りになどしません」
この国の王妃として、民や兵、使用人たちを置いていくことは、心優しいカルデアには出来なかったのだ。
***
どのくらいの時が経ったのだろう。
カルデアは、ベッドに腰掛け、冷たい石の壁に背を預けると、ぼんやりと天窓を見上げた。
(今宵は、悲しいほどに月が綺麗だわ……)
月の光があまりにも優しく、カルデアはもう何度目かもわからない涙を零した。
「……静かだわ」
騒がしかったはずの音が、今や不気味なくらいに静まり返っている。
その中に、コツコツと仕立ての良さそうな革靴の音が鳴り響き、この部屋に向かっているのがわかった。