渇愛の契り~絶対王と囚われの花嫁~
「イナダールに嫁ぐなど、国王は何を考えているのか!」
「アイル……」
「あの冷徹非道なヘルダルフ王の元へ行けば、カルデア姉様が、どんな扱いを受けることになるか……っ、正気とは思えません!」
(優しい子、私の身を案じてくれているのだわ)
それだけで、この胸には春が訪れたように、温もりが広がる。
カルデアがこうして己を犠牲に出来るのも、アイルという希望がこの国に存在するからだった。
「アイル、姉様の言うことを、よく聞いてね」
「聞きたくありません」
「アイル……」
「別れの言葉のつもりで、言うのでしょう?私は、カルデア姉様を見送るつもりは、ありません。引き止めるつもりで、追いかけて来たのです!」
(この国で、この政略結婚を止めようとしてくれるのは、アイルだけね)
この国で、王家は悪だ。
民から税を搾り取るだけ搾り取り、私欲に使う。
実際に豪遊しているのは、国王と一部の大臣たちだけだが、民にとって王家はひとまとめに王家。
だからこの国では、カルデアの政略結婚を泣いて喜ぶ者はいても、理不尽だと止める者は存在しない。
(私の愛しい弟……。あなたがいたから私は、お役目から泣いて逃げたりせずに、気高い王女でいられる。姉様と慕ってくれるあなたに、恥じることない自分でいたいから)