私は対象外のはずですが?~エリート同僚の甘い接近戦~
私は主任からコピー機に視線を戻すと、次の原稿をセットしてスタートボタンを押し、その間に、そばに置いてある机の上でコピーの終わった資料の端をそろえていく。無言のままひたすら単純作業を繰り返し、やがてすべてのコピーが終わると、それらをまとめる作業を自分のデスクでするために、私は一課を後にした。



「お先に失礼します」

残業が終わったのは、結局、午後七時前。
森川課長に資料を二十部渡し、私は帰り支度をして、二課のフロアを出た。

ああ、本当にお腹空いた……。頭の中、今はそれしかない。

長い廊下の中央にエレベーターがある。ひとり、その前にたたずんでエレベーターが来るのを待っていると、誰かの足音が近づいてきて私のそばで止まると同時に声をかけられた。

「お疲れさま」

不意に横を見上げると、宮坂主任が穏やかな笑みを浮かべて立っている。

「お疲れさまです」

私も軽く頭を下げて応える。

「二課の木谷さんだったよね」

「あ、はい」

顔なんてほとんど合わせたことなかったのに、主任が私の名前を知っていたことに少し驚いた。

「さっき、うちのコピー使ってたの、木谷さんだよね」

「そうです。なんか、うちの方が使えなくて」

後ろ姿でも、わかるもんなんだな……。ああ、私が女子社員の中で一番背が高いからかな?

「遅くまで大変だね」

「あ、いいえ……」

返事をしながら、この人に話しかけられることも言葉を交わすことも初めてだということに気づく。

「そんなに遅いわけじゃないですし、まだ残ってる人もいますから。宮坂主任もわざわざ本社から戻って……」

お仕事お疲れさまでした、と続けようとした時。

ギュルルルル……

私の意志とは関係なく、お腹が盛大な音を立てた。
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