私は対象外のはずですが?~エリート同僚の甘い接近戦~
何、こんなタイミングで恥ずかし……! 絶対、聞かれた……! 笑われてるよね……!?

羞恥で会話を続ける気力をなくした私は、足元に視線を落とし、早くエレベーターが到着することを願った。

すると、宮坂主任が思いがけないことを言った。

「木谷さん、このあと時間ある?」

「……え?」

思わず横を見上げると、微かに笑った主任の顔がこちらに向けられている。でも、バカにしたような笑いではない。

「俺もちょうど腹減ってたとこだし、食事でも行かない?」

突然の申し出に、驚いて主任の顔をまじまじと見てしまう。ということは、やっぱり聞かれてたんだ。でも、だからってそこまで気を遣ってもらう理由もないし、親しくもないのにそんなことしてもらったら返って申し訳ない。

この人とのきっかけを待ち望んでいる女子なら、きっとものすごく美味しいシチュエーションなんだろうけど、あいにく私は望んでない。

「すみません、私、用事があって。申し訳ありません」

軽く頭を下げる。気まずい反応をされるかなと思ったけど、主任の表情は穏やかなまま変わらなかった。

「ああ、ごめん。そんなに謝らないで。急に誘った俺が悪いんだし。もしかして、彼氏と約束? だったら俺、彼に悪いことしたな」

「……あ、ええ、まあ……」

彼氏なんていないけど。でも、まあそういう理由が一番手っ取り早いか、と思い、私は曖昧に返事をした。同じ会社の男性社員とは、プライベートではあまり関わりたくない。ふたりきりなんて、なおのこと。

ちょうどその時、エレベーターが到着した音が耳に届いた。フロアから廊下に出てきた若手の男性社員が数名、それに気付いて慌ててこちらに走ってくるのが見える。

「お疲れさまです!」

彼らは私たちに挨拶をし、開いた扉から一緒に乗り込むと、そのまま主任を交えて他愛ない話を始めた。私は話の輪に加わることなく、エレベーターが一階に到着すると同時に「お疲れさまでした」と降り、足早にビルを後にした。

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