私は対象外のはずですが?~エリート同僚の甘い接近戦~
テレビをつけようとテーブルの上のリモコンに手を伸ばした時、ボードの横に立て掛けてあるDVDのジャケットが視界に入った。

それは、今、ファンの間では絶大な人気を誇る若手男性声優陣によるライブイベントのDVD。ふたつ年下の妹が、一ヶ月前ここへ遊びに来た時に持ってきて、そのまま置いていった物だ。

妹は昔から、マンガやアニメといった二次元の世界が大好きで、最近ではアニメの声優にどっぷりはまっている。『お姉ちゃんも一緒に見よう』と言われ、さほど興味もなくDVDを見始めたけど、まるでアイドルのライブを見ているような錯覚に陥った。

皆、歌が上手い。そして、いい声。時々アニメの名シーンのセリフも織り込み、テレビ画面の中の会場は大盛り上がり。横を見ると、興奮で目を輝かせた妹が、前に体を乗り出して画面を凝視している。

声に癒される、と妹は言っていた。見る前はピンとこなかったけど、それ、ちょっと分かる気がする。何かのアニメのワンシーンなんだろうけど、「お前だけだよ」みたいなことを心地よい声で言われたら、三十路手前の女でも不覚にもキュンときちゃう。

現実にはそんな男いないよね、と思いながら、冷凍庫から一食分ごとにラップに包んだ白ご飯をひとつ、出してきてレンジで解凍する。その間にスーパーで買ってきたお総菜のパックを袋から取り出した。今日は大好きなきんぴらごぼうと、キュウリの酢の物が安くて良かった。

昔はちゃんと毎日自炊もしてたのに、いつの間にか週末に二回すれば良い方になってしまった。小さい頃から共働きの両親に代わって、妹達の世話をしてきたのが普通だったから、社会人になってひとり暮らしを始めて、解放感からか少しずつ気が緩んできてしまったのは否めない。



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