私は対象外のはずですが?~エリート同僚の甘い接近戦~
「すみません」

慌てて手を引っ込める。すると、

「いえ、こちらこそ」

と、男性の声が聞こえた。どこかで聞いたことのあるような声だと思って、何気なく横を見る。脱いだスーツの上着を手に持った、ネクタイ姿の端正な顔立ちの男性と目が合った。

その顔に驚いて、「あっ」と口から出かけた声を何とか押し殺す。

そこに立っていたのは、約一時間前に会社でエレベーターを待つ間、少し言葉を交わした宮坂主任だった。

無言のまま、彼の綺麗な瞳が私をじっと捉えている。思わず吸い込まれそうになったけど、自分がすっぴんで野暮ったい格好をしていることに気づき、急いで顔を背けた。そのままプリンを手に取ることなく、私はレジに進み会計を済ませて、うつむいたまま逃げるようにコンビニを出た。

別に後ろから主任に追いかけられているわけでもないのに、自然と夜道を歩くスピードが上がる。

完全にオフモード、いやむしろビールとつまみの枝豆を買い込むオヤジ状態の時に、予期せぬ相手に遭遇し、気持ちが落ち着かない。

今までこの辺りで会社の人には誰にも会うことなかったから、気を抜いてた……! どすっぴん眼鏡の干物女が私だと気づかれた!? それより、主任がなんであんな所にいたの!?


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