(完)嘘で溢れた恋に涙する
「じゃあな。付き合ってくれてさんきゅ」


家の前で理玖と別れてから、私はゆっくり玄関の戸を開けた。



その音を聞きつけたのか、奥から騒々しい足音が近づいてくる。



「あんた、ふざけとると!?今日は早よう帰ってこいって言っとったろ!そんなことも聞けんならさっさとこの家から出ていかんね!
犯罪者の家族なんて本当は住まわせたくなかとけんね!
今度やったら承知せんよ!」



前に立つおばさんが顔を赤くして前に仁王立ちする。


やっぱり早く帰ってくるべきだった。


後悔しても過去に戻れるわけじゃない、ここはちゃんと謝ろう。


そう思って頭を下げようとした瞬間だった。


瞬間、右頬に強烈な痛みを感じる。


ぶたれたんだって気づいたのは少し経ってからだった。


震える手で右頬を抑えておばさんを見ると、おばさんは肩で息をしながら私を鋭く睨みつけた。


「ほんとあんたの目ぇ、イライラすっばい。
あんた自分は被害者とか思いよろうが。
勘違いすんじゃなかよ。
あんたは加害者だ。しっかり、働いて償いな」


その通りだ。


捲し立てられても、怒る気にも泣く気にもならない。


いや、もはや何も感じない。


耳を通り抜けていく喧騒のように、心に届くこともなく消えていく。


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