そして、朝が来る
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漸く姿を現した月が、二人を優しく照らし出す。また生きてみよう、と決意した少女を、静かに応援しているように。
人生に絶望するひとは、そんなにいないかもしれないけれど、決してゼロなんかじゃない。助けを求めて死を選んでしまうひとだって、きっといないわけではない。
そういう人たちを助けるには、どうしたらいいのだろう。小説の中でしかありえない、と言い切れない環境を作るには、どうすればいいのだろう。
もっと言葉に出して助けを求めてほしい、と少女は願う。
それがとても難しいことは、少女が一番よく分かっている。それでも、言葉にしないと始まらないことだってあるということを、少女は嫌というほど知っている。だから。
ノートパソコンを叩きながら、少女は────一人の女性は、ただひたすらに祈った。
大丈夫、必ず朝は来る。そのためのサイトで、そのための私と、そして彼。
少し悩んでから、女性はサイトの名前と、トップページに載せる言葉を決める。打ち込んでサイトを更新すると、すぐに来た男性からのいいんじゃないかという連絡に、小さく笑みを零した。
少しでも、苦しむ人が減りますように。死を選んでしまう前に、立ち止まる場所に慣れますようにという意味を込めて。
サイト名は、『ヒカリ』。トップの言葉は、『そして、朝が来る』。
止まない雨はないように、晴れ続ける空もない、というひとだっているだろう。けれど、晴れ続ける空がないように、止まない雨はない。
そして、明けない夜だってない。夜は必ず明けるものだ。
あの日助けられた少女は、いつしか女性になって、そして今度は救う側になる。そして救われた少年少女が、今度はまた、年下の少年少女を助ける側になる。
物語は続いていく。ひとが生きている限り。
そして、朝が来る。彼らが、彼女らがいる限り。
諦めたくなる日もあるだろう。諦めてしまう日も、逃げ出したくなる日も、こちらから捨ててやるという日だって、きっとたくさんあるだろう。
それでも命まで諦めないでほしい。命まで捨てないでほしい。死という逃げに、走らないでほしい。
きれいごとだと知っていても、彼女はそう願う。祈る。
自分が救われたことを、まるで小説のような物語を伝えるために。
そして、朝が来ることを、伝えるために。
少女から女性に変わった彼女は、そうしてまた一歩を踏み出した。

