熱情求婚~御曹司の庇護欲がとまらない~
「はい、行ってきます!」


私も元気に挨拶して、急いで女子トイレから出る。
エレベーターホールに向かって廊下を小走りしながら、頭の中で聡子さんの言葉がグルグル回っていた。


『もったいないったらないわよ』


そういう見方が普通なのかもしれない。
私だって、婚約解消を申し出る前は、波風立てずに流されるがまま結婚すれば、私の一生の幸せは保証されると思っていたんだから。


だけど解消しなかったら、今胸に広がる、淡く甘酸っぱいくすぐったさを知ることは、この先一生なかったんじゃないかと思う。


お互いにとって当たり前すぎた許嫁という関係。
なんの疑問も持たないまま結婚してたら、私たちはきっと、特別な相手に特別な感情を抱かないまま、ただ惰性で寄り添うだけだったんじゃないだろうか。


最初から、恋をすることから始める。
私たちは、生まれたての恋人同士。
将来の約束は、白紙撤回したままだ。


優月を恋人と意識するだけで、今までと変わらないことにも、いつもと違う感覚が生まれる。
些細な変化でも積み重ねていけば、私の彼への想いはきっと恋になる。
そうなってやっと、私は優月に追いつける。


再び『結婚』を意識するところまでは大きな回り道だけど、きっとずっと幸せだと、私は信じる。


確信にも近い期待を胸に、私はその日が来ることを心から願った。
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