熱情求婚～御曹司の庇護欲がとまらない～
私の人生の中で恋をすべきたった一人の人。
彼と一生に一度の恋を始める。
そのスタートラインが、私の視界にもはっきりと飛び込んできた、そう思ったのに――。


「綾乃」


何も言えずにいる私との距離を、優月が一歩踏み出して縮めてくる。


「っ……あ」


頬に触れた彼の手に、確かに一瞬力がこもるのを感じて、小さく怯むような声が口を突いて出た。
優月が私の顔を覗き込むように近付いて、お互いの前髪が掠め合う。


そんな感覚に、私は反射的に身体を竦ませた。
ギュッと目を閉じ顎を引いて、次に降りてくる感触に身構えてしまう。


けれど。


「……え？」


唇に来ると予想したその温もりを、左の頬に感じた。
それに驚いて、私は一瞬拍子抜けしたような声を漏らしてしまう。


ゆっくりと離れていく優月の唇を追いかけるように、私は大きく目を開けた。
彼は私を見つめたまま、困ったような笑みを浮かべる。


「……バーカ。男の前で、簡単に目閉じるなって言ったろ」


そう言って頬から手を離すと、優月はちょっと乱暴に、私の髪をグシャグシャと掻き回した。


「やっ……優月っ！？」


頭をポンと叩く仕草よりも、攻撃的なその行為に抗議するように、私は再び優月の手を捕まえる。
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