熱情求婚~御曹司の庇護欲がとまらない~
「俺、昨夜優月と飲んでてね。話は聞いた。どう? だいぶ清々しい?」


そう訊ねられ、私は曖昧に首を傾げた。


「そうですね。正直晴れ晴れしたような感じもします。婚約解消も、優月がご両親に口添えしてくれたので、思った以上にすんなり成立したし……」

「もめなくて良かったんじゃないの?」


進藤さんは私が微妙に言葉を濁したのに気付いたのか、ちょっと意地悪にニヤリと笑った。
それには私もわずかに口をへの字に曲げる。


「そうなんですけど……今朝会った時、優月全然いつもと変わらなくて。私は結構長いこと考えたのに、真剣に考えるようなことでもなかったのかなあ、とか」


つい愚痴るような言い方になってしまったのは、今朝、優月と朝の挨拶を交わした時のことを思い出したからだ。


婚約解消後、今日初めて顔を合わせた。
私は昨夜から緊張していた。
なのに社長室で遭遇した途端、優月はいつもと同じように『おはよう、綾乃』と挨拶してきた。


あんまり普通で私の方まで拍子抜けしてしまい、婚約解消なんて夢を見たんじゃないか、なんて思ったほどだ。


私の顔はふて腐れてたんだろうか。
進藤さんはまだクスクス笑いながら、サーモンムニエルに箸を入れている。
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