熱情求婚~御曹司の庇護欲がとまらない~
「正直なところ、優月の何が不満かと聞かれて、明確に答えられるほどの不満があるわけではないの」

「じゃあ、どうして」

「今まで不満に思ったことがない。それがまずおかしいと思うわ」


窓辺からベッドに向かって踏み出してきた優月に、私は間髪入れずに畳みかける。
優月は眉間の皺を深め、口を噤んだ。
そして、私を不可解そうな瞳で見据える。


「ねえ、優月。私は籠の中の鳥と同じだったと思うの。狭い世界に囲われて、大空を知らないまま、空の飛び方を忘れていく小さな鳥」


言葉を考えながら告げる私に、優月は黙ってゆっくり近付いてきた。


「鳥?」

「そう。大学生の時までは、与えられた物が私の世界のすべてだと思ってた。だから私には幼い頃から優月しかいなかったし、あなたが世界の中心だった。でも……それを不思議に思わないなんて、私はやっぱりおかしいのよね」


自分の言葉に頷いて納得する私に、優月はますます訝しげに顔を歪め、どこか乱暴に私の隣に腰を下ろした。
ベッドのスプリングをギシッと軋ませながら、彼は大きな溜め息をつく。


「別に不思議なことじゃないだろう? 綾乃は俺の妻になると決まってたんだから」

「いいえ、そんなの不公平だわ」


苛立ちを隠すように少し長めの前髪を掻き上げながら言った彼を、私はピシャリと遮った。
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