樫の木の恋(中)
「まぁ男は飲んだら狼になるな。」
酒を飲みながら、上機嫌で先程官兵衛から聞いた話を思い出しているのだろう。大殿がにやにやと口を出す。
「大殿までっ!」
「わしかて、飲んだらしたくなるぞ?男じゃからな。」
「そ、そんなこと一度も大殿に言われたこと…。」
「言っとらんからなぁ。」
秀吉殿が落胆しながら飲み干したお猪口を持っていると、大殿がにやにやとしながら秀吉殿のお猪口に酒を注ぐ。
「大殿、あまり秀吉殿に飲ませないで下さい。」
「堅いこと言うな半兵衛。そんなこと言ってお主が一番秀吉が酔っ払ったら嬉しいじゃろう?」
「そーだそーだ。秀吉殿が酔っ払ったら、また助平なことをするんじゃないか。」
大殿と官兵衛の二人が、それがしに言ってくる。その横で秀吉殿は顔を染めながら、顔をぱたぱたと手で扇いでいた。
「して、赤い着物はいつ買いに行くのじゃ?」
大殿がにやにやとした顔を扇子で隠しながら、三成と同じ事を言う。
「官兵衛、そんなところまで話したのか。」
「そりゃ話すさ。一番面白い所じゃからな。」
官兵衛が何故か得意気に返答している最中、大殿がまだ秀吉殿のお猪口には酒があるのに満杯まで注ぐ。
そして大殿が秀吉殿に酒を飲むよう強要していた。