樫の木の恋(中)
秀吉殿はふと窓から離れ、こちらを真っ直ぐ居抜くように見据えてくる。
「わしはこの長浜城から近江国を栄えさせようと思う。そこで頼みがある。」
真剣に見据える秀吉殿は柔らかい陽に包まれていて、神々しく綺麗に思えた。
「なんでしょう?」
「半兵衛…いや、重治。」
秀吉殿にそう呼ばれるのは初めてだった。いつも通称の方で呼ばれていたのに、いきなり本名で呼ばれるとは思ってもいなかった。
きっとそれだけ大事な事なのだろう。
「わしは博識でなければ、戦が上手い訳でもない。ましてや女だ。そんな拙いわしをこれからも専属の軍師として支えてはくれぬか?」
秀吉殿は真っ直ぐな瞳は、それがしを捕らえて離さなかった。わざわざかしこまって、このような事を今更言う秀吉殿に堅い決意が見えた。
「この竹中重治。生涯をかけて、秀吉殿に身も心も尽くしまする。必ずや殿の名をこの乱世に轟かせてみせます。」
膝をつき頭を下げながら、言葉を告げると秀吉殿は花のように嬉しそうに笑っていた。
きっとこのお方は天下を取る。そう信じて疑わなかった。