樫の木の恋(中)
迷っていた。
どう答えるべきなのだろう。本心から述べれば、秀吉殿が構築した柴田殿の中での印象が壊れるやもしれない。
しかし他になんとお答えして良いものやら。
秀吉殿を見ると、構わんと口を小さく動かしていた。
だから、それに従った。
「秀吉殿は可愛らしく、真っ直ぐで優しいお方です。」
「そんな風には見えん。」
「織田家のために身を捧げ、それを遵守しているがために人には誤解されるやもしれません。頭も切れ度胸も男よりあるため、女狐と揶揄されるのも仕方のないことです。」
一呼吸置きながら秀吉殿を見ると、柴田殿の方を向いていて表情までは伺えなかった。
「しかし実際はどこまでもお優しい。大殿とお付き合いされていた秀吉殿に手を出したのは、それがしの方です。そんなそれがしを、秀吉殿は己には大殿がいて、大殿を裏切る事など出来ないと断られたものです。」
「半兵衛…話し過ぎだ。」
「いい、続けろ。」
秀吉殿が止めにはいるが、柴田殿がそれを遮る。どうしようかと迷ったが、話を続けることにした。
「それでも秀吉殿はそれがしを好いてくれまして。大殿もそれに気づき、秀吉殿には幸せになって欲しいと言ってまで、それがしの元へと送り出してくれたのです。」
秀吉殿は何も言わなかった。