樫の木の恋(中)
「それがしを庇い怪我を負ったり、大殿のために自らを犠牲にしようとしたり。それがしや大殿、大殿が大事になさる織田家が大事でして。そのためなら自らの命を惜しまない方です。」
黙ったまま誰も口を挟まない。重たい空気は流れることは無く、そこにとどまったままだった。
「そのような方が自らの出世のために大殿をたぶらかすなんてこと、するわけありません。秀吉殿は今でも、恋という感情は無くとも…」
ちらっと秀吉殿を見る。やはり何も秀吉殿の感情は分からなかったが、怒っている気はしなかった。
勝手にべらべらと印象を崩すようなことを話してしまった。しかしそれでも秀吉殿は許してくれている気がした。
「秀吉殿は大殿を愛しているのです。大事に、大事にされているのです。それがしはその想いにたいして嫉妬してしまいますが、それでもその秀吉殿の想いを汚らわしいと言うのであれば、それがしは柴田殿だろうと容赦致しません。」
強く真っ直ぐに柴田殿を見据え、言葉を発する。