樫の木の恋(中)
「馬鹿。」
長い間沈黙だったが、それを破ったのは秀吉殿短い言葉だった。
「普通言うか?ぺらぺらぺらぺらと。」
「秀吉殿は、構わんと言っておられたので。」
「その後言い過ぎと言ったろう。」
「でも秀吉殿は本気で止める時は、刀を抜いてでも止められるでしょう?」
「まぁな。半兵衛がどう思っているか知りたかったからな。」
そう言って、それがしに向かって優しく笑った。
可愛らしく笑うその笑みに思わず胸が早く鳴る。
「秀吉、悪かった。」
ふと、柴田殿の声が聞こえた。
勿論それがしと秀吉殿も驚いたが、それ以上に滝川殿と佐々殿が驚いた。
「柴田殿!何故、謝られるのです?こやつが竹中殿にそう言えと言っているやもしれんのですぞ!?」
佐々殿の荒げた声が部屋に響く。切羽詰まったその声は嫉妬心がかいまみえる。
「…そうです。こやつは女狐。その旦那も疑ってかかった方がいいです。」
滝川殿はただ淡々と言葉を紡ぐ。佐々殿とは打って変わって何の感情も無いように感じられる。