樫の木の恋(中)
「それと、秀吉。」
「まだ何か?」
「あー…さっきの、だな。その…」
「あっもしやお市の方様のお話ですか?」
「まぁ…それだ。」
顔を背けながら指で顔を掻きながら少し照れている柴田殿。そんな柴田殿はさすがに始めてだった。
「お主以外気づいておる奴はいるのか?」
「?いや?大殿も気づいて無さそうですし、半兵衛もさっき知ったみたいですし…。それがしだけですかね。明智殿とかは気づいてるかもしれませんが…。」
「そうか…。」
「まぁ、そういうのは男は鈍いですからねぇ。大半の方は大丈夫でしょうよ。まぁ大殿に気づかれたら、殺されかねませんですしね。」
「…だよなぁ。」
柴田殿はため息をつきながら扇子で顔を扇ぐ。
「それがしは協力など出来ませんよ。お市の方様は、それがしの事殺したい程憎んでおられますから。」
「まぁ、浅井家をやったのはお主だからな…。」
「岐阜城に行くたんびに、殺されるのではとひやひやしているくらいですから。」
殺されるのではと言っておきながら、にこやかに笑う。しかしそれでもどこか辛そうに見えた。重いという岡崎城で聞いたあの言葉が思い起こされる。
「まぁ頑張って下さい。」
そう言って秀吉殿は立って出て行こうとするので、それがしも後に続いた。