樫の木の恋(中)


「それと、秀吉。」

「まだ何か?」

「あー…さっきの、だな。その…」

「あっもしやお市の方様のお話ですか?」

「まぁ…それだ。」

顔を背けながら指で顔を掻きながら少し照れている柴田殿。そんな柴田殿はさすがに始めてだった。

「お主以外気づいておる奴はいるのか?」

「?いや?大殿も気づいて無さそうですし、半兵衛もさっき知ったみたいですし…。それがしだけですかね。明智殿とかは気づいてるかもしれませんが…。」

「そうか…。」

「まぁ、そういうのは男は鈍いですからねぇ。大半の方は大丈夫でしょうよ。まぁ大殿に気づかれたら、殺されかねませんですしね。」

「…だよなぁ。」

柴田殿はため息をつきながら扇子で顔を扇ぐ。

「それがしは協力など出来ませんよ。お市の方様は、それがしの事殺したい程憎んでおられますから。」

「まぁ、浅井家をやったのはお主だからな…。」

「岐阜城に行くたんびに、殺されるのではとひやひやしているくらいですから。」

殺されるのではと言っておきながら、にこやかに笑う。しかしそれでもどこか辛そうに見えた。重いという岡崎城で聞いたあの言葉が思い起こされる。

「まぁ頑張って下さい。」

そう言って秀吉殿は立って出て行こうとするので、それがしも後に続いた。



< 177 / 214 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop