樫の木の恋(中)
若殿は大殿に似ている。大殿に似た丹精な顔つきもそうだが、話し方や性格などもよく似ていた。
若殿の弟の信雄殿はあまり似ていないが。
「秀吉、今回もし上手くいかずに処罰されて城取り上げられたら、俺のところに来いよ。優遇してやるぞ。」
「最悪の場合そうさせてもらいますかねぇ。」
「半兵衛共々面倒見てやろう。」
「ふふっ、若はお優しい。」
秀吉殿はしくじるつもりもなければ、城を取り上げられるつもりもない。
もうほとんど虫の息である松永家など、容易いものだ。
確実に落とすのだろう。
だからか秀吉殿の言葉は軽い冗談にしか聞こえない。
それに城を取り上げられたとしても、大殿は秀吉殿を手放すわけがない。恐らく直属の部下として、使うだろう。
「ったく、ほんと秀吉は食えん奴じゃ。」
だから若殿はそのように言ったのだろう。
「誉め言葉として受け取っておきますね。」
「ほんと、昔からお主は変わらんなぁ。母君が、お主には気を付けろと口を酸っぱくするのがよく分かる。」
「吉乃様ですか?それがし何かしてしまったのかなぁ?」
とぼける秀吉殿に若殿は苦笑いをする。
生駒吉乃様というのは、若殿の母で、大殿の側室だ。大殿と濃姫との間には子がいないため、若殿が一番に織田家当主を継ぐ権利がある。
まぁ大殿にはたくさんの側室がいるが、結局は秀吉殿を一番に愛しているため、正室の濃姫をはじめ、側室の方々はよく思っていないだろう。