フェアリーテイルによく似た
◇
「遅くなる」とは言ったけど、「帰らない」とは言わなかったのにな。
ぐったり見上げる天井は、昨日の夜、真人さんの肩越しにずーっと見続けたもの。
その天井にカーテンの隙間から、朝日がラインを描く。
いつもの目覚めより少し遅い朝七時。
カーテンを開けたらきっと、誰もいない私の部屋の窓が見える。
きれいに結い上げられたはずの髪の毛はグッチャグチャ。
メイクも落としてないから多分ボロボロ。
シャツワンピースはしわしわ。
ちなみに靴は、脱いだまま店のイスの前に置きっ放しで連れて来られた。
女の人を美しく仕上げる魔法使いは、その手で私を見られないほどめちゃくちゃにした。
「一晩中観察させてもらう」って言ってたくせに、きっと下着の柄だって見てなかったと思う。
ずっと「おじちゃん」って呼んできたのに、男の人って、ちゃんと男の人なんだな。
それでやっぱり私も女だったんだな。
体中に散らされた模様は、バラの花びらのよう……というよりも、つけられるたびにチクチク痛くて、私を縛る茨の呪縛。
おかげで身体は酔っ払った後みたいにだるくて、このまま一緒に百年の眠りに落ちたいところだけど、美容院は土日も営業。
だから初めて見る寝顔もそろそろおしまい。
今日も彼は、私じゃないたくさんの女の人をきれいに幸せにする。
だけど、私だけを幸せにする手を、もう知ってるから。
目覚めて最初の挨拶は、父にでも母にでもなく。
「おはよう、真人さん」
キスとともにあなたに。
『髪をセットしながら、「誰も触るな!」って、本当はずっと呪ってた』
end