フェアリーテイルによく似た




「遅くなる」とは言ったけど、「帰らない」とは言わなかったのにな。

ぐったり見上げる天井は、昨日の夜、真人さんの肩越しにずーっと見続けたもの。
その天井にカーテンの隙間から、朝日がラインを描く。

いつもの目覚めより少し遅い朝七時。
カーテンを開けたらきっと、誰もいない私の部屋の窓が見える。

きれいに結い上げられたはずの髪の毛はグッチャグチャ。
メイクも落としてないから多分ボロボロ。
シャツワンピースはしわしわ。
ちなみに靴は、脱いだまま店のイスの前に置きっ放しで連れて来られた。

女の人を美しく仕上げる魔法使いは、その手で私を見られないほどめちゃくちゃにした。
「一晩中観察させてもらう」って言ってたくせに、きっと下着の柄だって見てなかったと思う。

ずっと「おじちゃん」って呼んできたのに、男の人って、ちゃんと男の人なんだな。
それでやっぱり私も女だったんだな。

体中に散らされた模様は、バラの花びらのよう……というよりも、つけられるたびにチクチク痛くて、私を縛る茨の呪縛。

おかげで身体は酔っ払った後みたいにだるくて、このまま一緒に百年の眠りに落ちたいところだけど、美容院は土日も営業。
だから初めて見る寝顔もそろそろおしまい。

今日も彼は、私じゃないたくさんの女の人をきれいに幸せにする。
だけど、私だけを幸せにする手を、もう知ってるから。

目覚めて最初の挨拶は、父にでも母にでもなく。

「おはよう、真人さん」

キスとともにあなたに。










『髪をセットしながら、「誰も触るな!」って、本当はずっと呪ってた』



end


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