恋蛍2
プロローグ
沖縄県、石垣島からフェリーで約15分ほどにある人口約300人の小さな離島、与那星島。
この島には不思議な言い伝えがいくつかある。
風が強い日や海の波が高い日は、浜のガジュマルの大木に触れてはならん。
大切な人に災いが降りかかるから。
とか。
浜の砂や植物を持ち出したら、必ず返さなければならん。
身の回りで良くない出来事が続くから。
だとか。
島の大人たちは言う。
この島には神様が住んでおるのさ、と。
なにかと便利になったこの時代だっていうのに、バスは1日2本しか走らんし、コンビニ1件ない小さな島だけど、オレは与那星島が大好きだ。
太陽を浴びると濃い朱色に輝くサンダンカの花。
一年中色鮮やかに咲き誇る、ブーケンビリア、元気いっぱいに南風に揺れる真っ赤なハイビスカス。
琉球石灰岩でできたいびつな石畳の道。
昔ながらの雰囲気そのままの赤瓦屋根の古民家が軒を連ねる集落。
手付かずのまま残っとる大自然に囲まれた風景は、太陽の光を浴びると眩いほどに輝く。
与那星浜へと続く白い砂地のフクギの並木道は、潮の香りの浜風がさわさわと吹き抜ける。
そして、水平線の方はパキリと割れそうなほどのロイヤルブルーなのに、浅瀬になると透明な海水と白砂のグラデーション。
島民はこの与那星浜の不思議な海の色クリアブルー”と呼ぶ。
浜の片隅でひっそりと海を見守るように立っている推定樹齢300年以上のガジュマルの大木。
この木にはしめ縄がされとって、海の神様が宿っておると言われとる。
太陽のきつい陽射しを跳ね返して燦然と煌めく水面。
日没してからも仄明るくあたたかな夕闇に染まっていく浜でひとり過ごす時間が、小さい頃から大好きだった。
どんなに嫌なことがあっても、落ち込んでも、昼間でもない夜でもないトワイライト色に包まれていく時間の浜へ行くと、台風のように荒れ狂った心がすうっと軽くなって、穏やかな気持ちになれた。
夜は世界中の宝石をかき集めてばらまいたような満天の星が、島を包み込む。
島での毎日は黄昏時のないだ海のように平凡だけど、平和な毎日だった。
『あの! これ、デイゴの木とちゃいます?』
そうさ。
あの日、彼女が現れよるまでは。
『大丈夫や。平気や言うとるでしょ。死んだりせえへんよ。心配せんでも、うち、そこまで弱ないわ』
ジャンヌダルクなのか、マリーアントワネットなのか。
ナイチンゲールなのか、クレオパトラなのか。
『結弦くん、うちなぁ、疫病神さんなんやって』
天使なのか、悪魔なのか。
ほんとうによう分からん、謎だらけの不思議な子やった。
『うちがこの島に来た本当の理由、結弦くんにだけ教えたるわ』
大風が過ぎ去った翌日の、そらぁもうよう晴れた朝から暑い暑い日だった。
平凡平和だったオレの日常に、何の前触れもなく、突として彼女が現れよったのは。
『ここは神さんがいてはる島や、聞いたからや』
この島には不思議な言い伝えがいくつかある。
風が強い日や海の波が高い日は、浜のガジュマルの大木に触れてはならん。
大切な人に災いが降りかかるから。
とか。
浜の砂や植物を持ち出したら、必ず返さなければならん。
身の回りで良くない出来事が続くから。
だとか。
島の大人たちは言う。
この島には神様が住んでおるのさ、と。
なにかと便利になったこの時代だっていうのに、バスは1日2本しか走らんし、コンビニ1件ない小さな島だけど、オレは与那星島が大好きだ。
太陽を浴びると濃い朱色に輝くサンダンカの花。
一年中色鮮やかに咲き誇る、ブーケンビリア、元気いっぱいに南風に揺れる真っ赤なハイビスカス。
琉球石灰岩でできたいびつな石畳の道。
昔ながらの雰囲気そのままの赤瓦屋根の古民家が軒を連ねる集落。
手付かずのまま残っとる大自然に囲まれた風景は、太陽の光を浴びると眩いほどに輝く。
与那星浜へと続く白い砂地のフクギの並木道は、潮の香りの浜風がさわさわと吹き抜ける。
そして、水平線の方はパキリと割れそうなほどのロイヤルブルーなのに、浅瀬になると透明な海水と白砂のグラデーション。
島民はこの与那星浜の不思議な海の色クリアブルー”と呼ぶ。
浜の片隅でひっそりと海を見守るように立っている推定樹齢300年以上のガジュマルの大木。
この木にはしめ縄がされとって、海の神様が宿っておると言われとる。
太陽のきつい陽射しを跳ね返して燦然と煌めく水面。
日没してからも仄明るくあたたかな夕闇に染まっていく浜でひとり過ごす時間が、小さい頃から大好きだった。
どんなに嫌なことがあっても、落ち込んでも、昼間でもない夜でもないトワイライト色に包まれていく時間の浜へ行くと、台風のように荒れ狂った心がすうっと軽くなって、穏やかな気持ちになれた。
夜は世界中の宝石をかき集めてばらまいたような満天の星が、島を包み込む。
島での毎日は黄昏時のないだ海のように平凡だけど、平和な毎日だった。
『あの! これ、デイゴの木とちゃいます?』
そうさ。
あの日、彼女が現れよるまでは。
『大丈夫や。平気や言うとるでしょ。死んだりせえへんよ。心配せんでも、うち、そこまで弱ないわ』
ジャンヌダルクなのか、マリーアントワネットなのか。
ナイチンゲールなのか、クレオパトラなのか。
『結弦くん、うちなぁ、疫病神さんなんやって』
天使なのか、悪魔なのか。
ほんとうによう分からん、謎だらけの不思議な子やった。
『うちがこの島に来た本当の理由、結弦くんにだけ教えたるわ』
大風が過ぎ去った翌日の、そらぁもうよう晴れた朝から暑い暑い日だった。
平凡平和だったオレの日常に、何の前触れもなく、突として彼女が現れよったのは。
『ここは神さんがいてはる島や、聞いたからや』