恋蛍2
「あの人に、ここまで連れて来てもらったんよ」


「はさっ、そうだったんか」


葵先生が振り向いてにっこり笑う。


「ありがとうね、結弦」


「いや、たまたま通り掛かってさ。だから、オレはなんも」


と右手を振るジェスチャーをすると、すかさず美波姉ェネェが「やるねえ」とオレの背中を平手打ちした。


「あがー。美波姉ェネェよーもー」


「そうさ、結弦。紹介するさ」

と葵先生が彼女の折れそうに華奢な肩を抱く。

「この子さ、結弦と同い年なんだしさ」


小石原(こいしはら)いろは。
16歳。
京都祇園で200年続く老舗呉服屋のひとり娘。
家の都合でこの島にひとり移住してきたのだ、と葵先生が教えてくれた。


「よろしくね、結弦。夏休みが明けたら、結弦たちと同じN高に通うからさ。いろいろ教えてやって」


葵先生の後ろで「よろしゅう頼みます」と彼女は小綺麗に一礼した。
彼女は、今日から葵先生の家で生活するらしい。


そんな老舗の店のひとり娘が?
家の都合で?
移住? この、与那星島に?
待て待て待て、そんな16歳のひとり娘をこんな離島にひとりで出す親なんておるんか?

納得できんことだらけ。
いきなり情報過多過ぎて直ぐには受け入れられず、間抜けな返事をした時、ポケットでスマホが震えた。

「あぁ……はぁ」

律からのラインメッセージだった。
< 17 / 46 >

この作品をシェア

pagetop