恋蛍2
  

   ごめん
   今日ムリになった



フェリーが通常運行になったため、予想外に観光客から予約が入り店を手伝うことになった、という内容のラインメッセージだった。
メッセージを見て一気にテンションが落ちる。

オレのタコライスがぁぁぁ。

「えーっ、なにさあー。まじでかねー」


律の家はタコライス屋だ。
律の父さんが作るタコライスはとにかくうまい。
シャキシャキのレタス、ピリ辛のサルサソースとチリソース。ジューシーなミートソースにチーズがマッチして濃厚で。トッピングは完熟のアボカドととろーり温玉。


律の父さんのタコライスはオレの大好物なのだ。
タコライス……食べたかったのにさあ。


「はあー」


もう口がタコライスになっとったオレはがっくり肩を落として、待合室の古ぼけたソファにどっさり背中から沈むように座った。
今日唯一の楽しみがなくなってしまった。


「なんね? どうしたのさ」


美波姉ェネェが不思議そうに首を傾げる。


「あー、んー」


オレはだらしない返事をして、そのままズルズルと崩れるようにソファに寝転んだ。


「律のやつ、ドタキャンさあ」


昨日は昨日で台風のせいで外に一歩も出れず、1日中家におってヒマでヒマでどうにかなりそうだったのにさ。
せっかくいい天気になったっていうのに、今日もまたヒマになってしまった。
翔琉は母さんと一緒に民宿に行きよったし、夕方まで戻らんし。


あ。


オレも民宿に遊びに行こうかね。
律の父さんのタコライスにはかなわんけど、タダでうまい飯食えるし。


……いや。


ダメさ。


いま行ったら間違いなくオレまで手伝いさせられてしまう。確実だ。


……仕方ない。


おとなしく家に帰ってシャワーでも浴びてさっぱりしてからゲームでもしようかね。
それこそ、昼飯はカップラーメンでいいしさ。


「さぁーて」
帰ぇろうかねぇー。

フン、と勢いをつけて起き上がりこぼしのように上半身を起こす。

< 18 / 46 >

この作品をシェア

pagetop