守神様の想い人
「サァラ!どこ行ってたんだい?心配したじゃないか!」
気がつくと、私は家の扉を開けていた。
「えっ………。」
「えっ、じゃないでしょ。こんな書き置きだけで一日中留守にするなんて!」
母が小さな紙を私の目の前でちらつかせた。
「とにかく、無事に帰ってきてくれて良かったわ。最近なんだか様子が変だったから心配したのよ。」
リジュアが横から肩に手をかけてくる。
「まったく、もう!晩ごはんにするよ!」
母はかんかんに怒りながら、食器をならべだした。
「お母さん、朝起きたらサァラがいなかったもんだから、心配して今日は何にも口にしてないのよ。で、どこにいってたの?」
(どこに?どこかに行ってたの?私………………。)
母が持っていた書き置きを………、書いた覚えはあった。
でも、どうしてか思い出せない。
今日、どこかに行っていたのか………?何をしてたのか………?
頭の中に靄(もや)がかかったみたいになって、ハッキリしない。
「さぁ、冷めないうちに食べるよ!」
「サァラ、食べよう。」
「う、う………ん。いただきます………。」
温かいスープを口に運んだ。
優しい温かさがじわっと広がったけれど、いつも美味しいはずの母のご飯を………、美味しいと感じなかった………。
………………………、その晩、母とリジュアは、それ以上何も訊かなかった。
次の日、いつも通りに起き、畑仕事に向かった。
「おはよう。サァラ!」
朝からヨシュがニコニコと挨拶をしてくれる。
「おはよう。ヨシュ。」
ヨシュがスッと横にきて私の腕を引き寄せて耳打ちしてきた。
「昨日はどこ行ってたのよ!?」
ヨシュが昨日のことを尋ねたから少し驚いたけど、母がヨシュなら何か知ってるかもと、ききにいったのかもしれない………、と思った。
案の定………。
「おばさんったら、真っ青な顔で私のところに来て、本当に驚いたんだから。」
「ごめんね。」
「サァラが無事だったんだから、まぁ、いいわ。」
ヨシュは私の背中を軽く叩いて笑顔で走っていった。
自分でもよく分からないけれど、みんなに心配をかけてしまったことを心苦しく思った。
でも、この時はまだ、私の中に空いてしまった大きな穴に気がついていなかった。
午前中の作業を終え、昼食を食べるために家へと歩いていたら、村で飼われている犬のポリーが近づいてきた。
遊んで欲しいのか、じゃれついてくる。
しかし、いつもなら走ったり、ジャンプさせたりと、かまってあげるのだけれど、今日は何もする気になれない。
「ポリー、ごめんね。また、今度ね。」
ポリーは小さく鼻を鳴らし、首をかしげていた。
家へつくと、家で作業をしていた母が昼食の準備を済まし、待っていてくれた。
「おかえり。お昼できてるわよ。」
「うん。ただいま。」
リジュアは今日はガイルの家の方に手伝いに行ったから、母と私で昼食を食べた。
いつもは簡単な昼食なんだけど、なんだか今日は一品多い気がする。
母なりに元気づけようとしてくれているのがわかった。
「サァラ………。」
母が手を止めて私を見た。
私も手を止めて母を見る。
「サァラ、お前昨日、守神様のところへ行ったんだろう?」
「えっ?」(守神様………?)
母は眉をしかめながら返事を待っている。
だけど、私には母が何を言ってるのかわからなかった………、守神様というのが誰のことなのかも………。
「その様子じゃ会えなかったのかい?だけどね、守神様はあんなにお優しい方だったけど神様だよ。私達とは住む世界が違う。もう忘れる方がいいんじゃないかい………。」
最後の方は小さくつぶやくように言った。
「ちょ、ちょっと待って?守神様って?」
母は驚いた顔をしたけど、すぐに悲しげな表情になった。
「私、昨日どこに行ったのか覚えてないの………、守神様のところへ行ったって………、お母さんは何を知ってるの?」
「サァラ………。」
その後は何をきいてもはぐらかされて、結局なにもわからなかった。
「じゃあ、行ってきます。」
「ああ、あんまり食べてなかったけど大丈夫かい?晩ご飯はサァラが好きな豆のスープを作っておくよ。」
笑顔で言う母に、黙ってうなづいて扉を閉めた。
(守神様………、守神様………、守神様………、)
何度思い出そうとしても、何もわからない。
でも、胸が少し痛くなるのと、左手の小指のアザが痛む気がした。
ため息を吐きながら畑に向かうとリジュアが待っていた。
「サァラ、午後の畑は私も手伝うから、早めに終わらせて、ガイルの家の方に手を貸してくれない?」
私は笑ってうなづいた。
「ガイルの家の方って、何をすればいいの?」
畑仕事をしながらリジュアに尋ねた。
「ああ、ガイルと住む家のね、外枠は出来たから、壁を塗る前の細かいところの作業を手伝って欲しいのよ。」
どんな作業かは手伝ったことがあったから、私はうなづいて畑仕事を早めに済まそうと頑張った。
リジュアも頑張ってくれた分、随分と早くに畑仕事が終わり、私たちは二人の家の方へ向かった。
着くと、ガイルが金槌を手にもち、何か作っているところだった。
「ガイル、頼れる助っ人をつれてきたわよ!」
リジュアがガイルにかけよって汗を拭いてあげている。
「おー、サァラが手伝いに来てくれたなら百人力だな!」
二人で揃って笑うので、私もつられて笑った。
作業を確認して、リジュアと二人で壁の中組を編んでいく。
リジュアとは息がピッタリで作業はどんどん進んだ。
「ええっ!?もうこんなに出来たのか?」
途中で手を休めながらガイルが驚いた。
「本当に!こんなに早く作業が進むなんて私もびっくりしたわ。サァラのときは私が手伝いに行ってあげるから、その時はもっと早く出来るかもね?」
リジュアとガイルが笑う。
「私のとき?」
「そうよ。サァラだって、そう遠くないわよ。」
「ナサエルなんてどうだ?あいつ、いいやつだぜ。」
首をかしげる私に作業を始めながらガイルが笑いながらリジュアの後に言った。
「ナサエルかぁ、そうねぇ、悪くないわね。」
リジュアがお姉さんらしく笑う。
「ああ、そーいう話………。私は………………、」
なんだか二人の会話が遠くに感じられて笑えなかった。
「もう。サァラったら………。」
リジュアは呆れた様子でため息をついた。
「そんなことより、作業、作業!リジュア!」
「はい、はい。誰の家の作業やら。」
呆れ顔のリジュアがそんな風に言ったのがおかしくてみんなで笑ってしまった。
「まさか、今日で中組が全部出来るなんて思わなかったわ!ありがとう、サァラ!」
帰り道、リジュアが嬉しそうに言った。
「楽しみだね、二人の家が出来上がるの。」
二人で顔を見合わせて笑った。
リジュアは本当に幸せそうだ。
家に帰ると、母が豆のスープを温めながら待っていた。
リジュアの話を聞きながら、喜んでいる。
「さぁ、晩ごはんにしようか。」
三人で食卓を囲みながら、何気ない話をする。
楽しいはず、なのに………、美味しいはず、なのに………、どこか、わびしい。
リジュアがガイルと結婚してしまうと、ここから居なくなるから?
そんなことじゃない気がする。
だって、リジュアが結婚して、この家を出ていっても、いつでも会える。
いつでも………、会える?
そんなことを考えていたら、不意に胸が痛くなった。
会いたい………………。
………………………………………誰に?
「サァラ?どうしたんだい?」
母に声をかけられてハッとした。何を考えていたんだろう?
「あんまり食べてないじゃない。」
「あ………、ごめん。なんか、あんまり食欲がなくて………。ちょっと、先に休むね。」
「サァラ、ちょっと………、具合い悪いの?大丈夫?」
リジュアが背中に声をかけてくれる。
「うん。休めば治ると思う。おやすみ………。」
母は心配そうに見ていた。
「サァラ、どうしたのかしら?」
「………………………。」
「お母さん?」
二人も黙ったまま食事をすまし、その日は早めにやすんだ。
気がつくと、私は家の扉を開けていた。
「えっ………。」
「えっ、じゃないでしょ。こんな書き置きだけで一日中留守にするなんて!」
母が小さな紙を私の目の前でちらつかせた。
「とにかく、無事に帰ってきてくれて良かったわ。最近なんだか様子が変だったから心配したのよ。」
リジュアが横から肩に手をかけてくる。
「まったく、もう!晩ごはんにするよ!」
母はかんかんに怒りながら、食器をならべだした。
「お母さん、朝起きたらサァラがいなかったもんだから、心配して今日は何にも口にしてないのよ。で、どこにいってたの?」
(どこに?どこかに行ってたの?私………………。)
母が持っていた書き置きを………、書いた覚えはあった。
でも、どうしてか思い出せない。
今日、どこかに行っていたのか………?何をしてたのか………?
頭の中に靄(もや)がかかったみたいになって、ハッキリしない。
「さぁ、冷めないうちに食べるよ!」
「サァラ、食べよう。」
「う、う………ん。いただきます………。」
温かいスープを口に運んだ。
優しい温かさがじわっと広がったけれど、いつも美味しいはずの母のご飯を………、美味しいと感じなかった………。
………………………、その晩、母とリジュアは、それ以上何も訊かなかった。
次の日、いつも通りに起き、畑仕事に向かった。
「おはよう。サァラ!」
朝からヨシュがニコニコと挨拶をしてくれる。
「おはよう。ヨシュ。」
ヨシュがスッと横にきて私の腕を引き寄せて耳打ちしてきた。
「昨日はどこ行ってたのよ!?」
ヨシュが昨日のことを尋ねたから少し驚いたけど、母がヨシュなら何か知ってるかもと、ききにいったのかもしれない………、と思った。
案の定………。
「おばさんったら、真っ青な顔で私のところに来て、本当に驚いたんだから。」
「ごめんね。」
「サァラが無事だったんだから、まぁ、いいわ。」
ヨシュは私の背中を軽く叩いて笑顔で走っていった。
自分でもよく分からないけれど、みんなに心配をかけてしまったことを心苦しく思った。
でも、この時はまだ、私の中に空いてしまった大きな穴に気がついていなかった。
午前中の作業を終え、昼食を食べるために家へと歩いていたら、村で飼われている犬のポリーが近づいてきた。
遊んで欲しいのか、じゃれついてくる。
しかし、いつもなら走ったり、ジャンプさせたりと、かまってあげるのだけれど、今日は何もする気になれない。
「ポリー、ごめんね。また、今度ね。」
ポリーは小さく鼻を鳴らし、首をかしげていた。
家へつくと、家で作業をしていた母が昼食の準備を済まし、待っていてくれた。
「おかえり。お昼できてるわよ。」
「うん。ただいま。」
リジュアは今日はガイルの家の方に手伝いに行ったから、母と私で昼食を食べた。
いつもは簡単な昼食なんだけど、なんだか今日は一品多い気がする。
母なりに元気づけようとしてくれているのがわかった。
「サァラ………。」
母が手を止めて私を見た。
私も手を止めて母を見る。
「サァラ、お前昨日、守神様のところへ行ったんだろう?」
「えっ?」(守神様………?)
母は眉をしかめながら返事を待っている。
だけど、私には母が何を言ってるのかわからなかった………、守神様というのが誰のことなのかも………。
「その様子じゃ会えなかったのかい?だけどね、守神様はあんなにお優しい方だったけど神様だよ。私達とは住む世界が違う。もう忘れる方がいいんじゃないかい………。」
最後の方は小さくつぶやくように言った。
「ちょ、ちょっと待って?守神様って?」
母は驚いた顔をしたけど、すぐに悲しげな表情になった。
「私、昨日どこに行ったのか覚えてないの………、守神様のところへ行ったって………、お母さんは何を知ってるの?」
「サァラ………。」
その後は何をきいてもはぐらかされて、結局なにもわからなかった。
「じゃあ、行ってきます。」
「ああ、あんまり食べてなかったけど大丈夫かい?晩ご飯はサァラが好きな豆のスープを作っておくよ。」
笑顔で言う母に、黙ってうなづいて扉を閉めた。
(守神様………、守神様………、守神様………、)
何度思い出そうとしても、何もわからない。
でも、胸が少し痛くなるのと、左手の小指のアザが痛む気がした。
ため息を吐きながら畑に向かうとリジュアが待っていた。
「サァラ、午後の畑は私も手伝うから、早めに終わらせて、ガイルの家の方に手を貸してくれない?」
私は笑ってうなづいた。
「ガイルの家の方って、何をすればいいの?」
畑仕事をしながらリジュアに尋ねた。
「ああ、ガイルと住む家のね、外枠は出来たから、壁を塗る前の細かいところの作業を手伝って欲しいのよ。」
どんな作業かは手伝ったことがあったから、私はうなづいて畑仕事を早めに済まそうと頑張った。
リジュアも頑張ってくれた分、随分と早くに畑仕事が終わり、私たちは二人の家の方へ向かった。
着くと、ガイルが金槌を手にもち、何か作っているところだった。
「ガイル、頼れる助っ人をつれてきたわよ!」
リジュアがガイルにかけよって汗を拭いてあげている。
「おー、サァラが手伝いに来てくれたなら百人力だな!」
二人で揃って笑うので、私もつられて笑った。
作業を確認して、リジュアと二人で壁の中組を編んでいく。
リジュアとは息がピッタリで作業はどんどん進んだ。
「ええっ!?もうこんなに出来たのか?」
途中で手を休めながらガイルが驚いた。
「本当に!こんなに早く作業が進むなんて私もびっくりしたわ。サァラのときは私が手伝いに行ってあげるから、その時はもっと早く出来るかもね?」
リジュアとガイルが笑う。
「私のとき?」
「そうよ。サァラだって、そう遠くないわよ。」
「ナサエルなんてどうだ?あいつ、いいやつだぜ。」
首をかしげる私に作業を始めながらガイルが笑いながらリジュアの後に言った。
「ナサエルかぁ、そうねぇ、悪くないわね。」
リジュアがお姉さんらしく笑う。
「ああ、そーいう話………。私は………………、」
なんだか二人の会話が遠くに感じられて笑えなかった。
「もう。サァラったら………。」
リジュアは呆れた様子でため息をついた。
「そんなことより、作業、作業!リジュア!」
「はい、はい。誰の家の作業やら。」
呆れ顔のリジュアがそんな風に言ったのがおかしくてみんなで笑ってしまった。
「まさか、今日で中組が全部出来るなんて思わなかったわ!ありがとう、サァラ!」
帰り道、リジュアが嬉しそうに言った。
「楽しみだね、二人の家が出来上がるの。」
二人で顔を見合わせて笑った。
リジュアは本当に幸せそうだ。
家に帰ると、母が豆のスープを温めながら待っていた。
リジュアの話を聞きながら、喜んでいる。
「さぁ、晩ごはんにしようか。」
三人で食卓を囲みながら、何気ない話をする。
楽しいはず、なのに………、美味しいはず、なのに………、どこか、わびしい。
リジュアがガイルと結婚してしまうと、ここから居なくなるから?
そんなことじゃない気がする。
だって、リジュアが結婚して、この家を出ていっても、いつでも会える。
いつでも………、会える?
そんなことを考えていたら、不意に胸が痛くなった。
会いたい………………。
………………………………………誰に?
「サァラ?どうしたんだい?」
母に声をかけられてハッとした。何を考えていたんだろう?
「あんまり食べてないじゃない。」
「あ………、ごめん。なんか、あんまり食欲がなくて………。ちょっと、先に休むね。」
「サァラ、ちょっと………、具合い悪いの?大丈夫?」
リジュアが背中に声をかけてくれる。
「うん。休めば治ると思う。おやすみ………。」
母は心配そうに見ていた。
「サァラ、どうしたのかしら?」
「………………………。」
「お母さん?」
二人も黙ったまま食事をすまし、その日は早めにやすんだ。