記憶の中のヒツジはオオカミだったようです!
いつも通りだったとすれば、卓馬が酔った雪乃をおぶって店の上にある住居に止めてくれるはずなのだが。
この白で統一された部屋と周りにある調度品、ふかふかなベッドや顔を左に向けるとある窓から見える景色に見覚えはない。
隣に壁も建物も見えないということは、ここがとにかく高い建物か最上階ということだ。
卓馬の自宅もタワーマンションだが、周りにも同じようなタワーマンションが建ち並んでいて、これほど景色がよくない。
「初めてだったのに……」
ぽつりと呟いた言葉は、広い部屋の中に消えていった。
人生最大の事件だというのに、雪乃がこれだけ落ち着いていられるのはベッドの隣がすでに空だからだ。
そうでなかったら、今頃大慌てで着替えを済ませて、足を忍ばせて部屋を出て行っている。
初体験の相手がどこの誰だか知らない以上、心配がない訳じゃない。
避妊はしてくれただろうか?
病気は持っていないだろうか?
セックスが初めてだろうが、知識はある。
だが、そんな事よりも自分がなるはずのない者になっていた衝撃のほうが大きい。
雪乃はナンパされるタイプでもなければ、男性に声をかけるタイプでもない。
むしろ、重度の人間嫌い。
何がどうなって、自分はーー。
そう考えながら、ベッドでごろごろしていると、物音がして思わず体が強張る。