記憶の中のヒツジはオオカミだったようです!
「ほら、内々の話だってあるでしょ? 聞いちゃ、悪いかと思って」
「何を言ってるんです? 朝日奈さんだって彼と積もる話があるでしょ」
「は?」
失礼かもしれないが、思わず素っ頓狂な声が出てしまった。
それもそのはず、朝のハプニングの前に会った記憶がないのだから。今回、集まっているのは高校時代の同学年の人たちだが、クラスが一緒になったことのない相手の名前は知るはずもない。
自慢にはならないが、雪乃の交遊関係は広くなかった。
「いや、失礼かもしれないけどこの人、誰?」
北風プラス雪でも降りはじめたのかってくらい、店内は冷たい沈黙に包まれた。
雪乃だけが別の惑星から来た異端者みたいな気分だ。
「本気で言ってます?」
すぐさま頷けば、あちらこちらからため息が聞こえて来る。
「ねえ、朝日奈さんなんて放っておいて、向こうで盛り上がりましょうよ、朔くん」
男の横に立っていた胸元を強調している服を着た子が、彼の腕に自らの腕を絡めた。
あまりの積極的な行動に感心していたせいで、雪乃は危うく重要なことを聞き逃しそうになった。