記憶の中のヒツジはオオカミだったようです!



(ん? さく(・・)くん?)


 聞き覚えのある名前に、雪乃は男へと視線を戻した。

 今朝、戸惑いの中で目にした見た目と変わらない。艶やかな黒髪と灰色の瞳。冷たいとも見える整った顔立ち。

 高い身長と広い肩幅。

 何一つ変わっていないはずなのに、見る目が変わったからか、昔の記憶と今が点と点で繋がった。


「まさか、大上朔(おおがみさく)?」


 冗談であってほしいという思いを込めて言えば、当の本人は雪乃の思いとは裏腹に嬉しそうに顔を綻ばせた。

 
「そうだよ、ヒナ」


 知っている声より低くなった声で呼ばれる朔しか呼ばないあだ名に、頭の奥で一生開かないように鍵を閉めた記憶の保管庫が不可解な音を立てる。

 嫌だと思った。あの頃のように傷つきたくない。

 雪乃は、近づこうと一歩を踏み出す朔に合わせて、一歩後ずさる。

 それは本能的な行動だった。



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