記憶の中のヒツジはオオカミだったようです!





 妙な緊張を強いられている雪乃の気持ちを知ってか知らずか、力を抜いた彼が肩に額をつけた。
 まるで恋人に甘えるような動作にどきりとしたが、若者のばか笑いが聞こえてきて、唐突にここが外であることを意識した。

「ちょっと! 離れて」

 油断していたからか、両手で朔の胸板を押すとあっさりと離れていった。

「ごめん。落ち着いて話せる所に行こう」

 ドアのボタンに手を伸ばし押すと、助手席のドアを開いて乗るように促した。
 有無を言わせぬ行動に、雪乃は逆らうことなく乗り込むと、運転席側に回る朔を目で追った。
 さっさとシートベルトを着けていた雪乃は、彼が乗り込む頃には窓の外に目を向けて、無言で話すことはないと抗議した。

 実際、話すことなんてない。
 食事を一緒に摂ることには同意したけど、昔話をするのに同意した覚えはないのだから。
 ラジオの音楽だけが流れる素っ気ない空間に座りながら眺める外では、恋人たちが楽しそう笑い、幸せそうにしている姿が目に入る。
 何度も恋人同士の話を書いてきたけど、それは雪乃の想像と妄想でしかない。気持ちを想像できても、そんな気持ちになったのは遥か昔過ぎて名残すらなくなってしまった。

 甘酸っぱかった?
 どきどきした?
 幸せだった?
 朔にどんな気持ちを抱いていた?

 ぼんやりと物思いに耽りながら眺めていると、車が地下駐車場へと入って行き薄暗くなった。
 
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