記憶の中のヒツジはオオカミだったようです!
カップとパンを乗せた皿を手渡し、自分の分を手にテレビの前のソファーに移動すると、朔はカウンターを選んだ。
「今日……会社は?」
雪乃は作家で、今は次の長編の参考にする資料集め中で、三週間の充電期間を満喫しているところである。
けれど、朔は帰国したばかりというくらいだから、何か仕事のために日本にいるのだろう。
「休みだよ。明日から行くんだ。そういうヒナの今日の予定は?」
「夕方、香穂の見送りに空港に行くから、午前中は大型の書店に行こうかと思ってる」
「なら、車を出すよ」
まだ一緒の時間を過ごさないといけないのかと思って、雪乃は顔をしかめた。
「いいよ……悪いから」
「平気だよ。もしも本を買ったら重いんじゃない? 空港も、行くと疲れるでしょ?」
雪乃は、ぐっと黙るしかなかった。普段は卓馬が車を出してくれるから、気に入った本を全て買うことができた。
けれど、一人で公共の交通機関を使う時は、選んで少量しか買えなくなる。
それに、空港までの人混みを想像しただけで喉の辺りが苦しくなる気がした。
「……その通りです。よろしくお願いします」
「それじゃあ、食べ終わったら行こうか」
柔らかく笑う朔があまりにも眩しくて、雪乃はテレビに顔を向けてクロワッサンを頬張った。