記憶の中のヒツジはオオカミだったようです!
「覚えていてくれたんだ」
「えっ?」
「ココア。俺が好きだったの」
「あ……でも、今は違うなら他にも何種類かっ」
他のポーションを出そうと朔に背中を向けると、首元に昔とは比べものにならないほど筋肉のついた腕が回された。背中の温もりで、自分は後ろか抱きしめられているのだと猛烈に意識する。
動きを制限するうえ、雪乃の嫌う逃げられない状況だというのに、嫌悪感も緊張感も感じない。
ただ、ひたすら胸の鼓動がうるさいだけだ。
「ごめん。触られるのが嫌なのは分かってるけど、嬉しくて……」
「う、嬉しい?」
腕から解放され、振り返ると朔は片手で顔を覆っていた。ほんのりと頬が赤い。
「あんな昔のことを覚えていてくれたから」
「そりゃ、そのくらい覚えているでしょ。今も好きかどうか知らないけど」
「好きだよ。会社では、さすがにコーヒーを飲むけど、ブラックじゃないよ」
治まる様子のない暴れる鼓動を気付かれないように、コーヒーメーカーにココアのポーションをセットしてボタンを押した。ココアが作られ、カップに注ぎ入れられる音で、少しだけ冷静な心を取り戻す。