記憶の中のヒツジはオオカミだったようです!
「特に用はないけど?」
「なら、どこかでディナーでもどうかな?」
「えっ……」
ディナーという言葉に、ドレスコードのある面倒なレストランが思い浮かび雪乃の顔は引き攣った。
テーブルマナーは一通り身につけているが、ルールの煩いレストランに着て行く服もなければ、そういう服は大嫌いでもある。体の線が出る服も、肩や腕を出さなければならない服も嫌いだ。
「ごめん。そんなに構えないで。ただの夕食を一緒に食べようって誘いなだけだよ。外が嫌なら、俺が帰ってから作ってもいいし」
電話越しでも朔は雪乃の困惑を感じ取ったのか、そう付け加えた。
彼の自然な思いやりに、胸の奥がキュッとなった。
「あ、あのさ。家でもいいなら、私が夕飯作ろうか?」
朔の思いやりに、何かを返したかった。
けれど、他に何も思い浮かばず、気付けばそう口にしていた。たいしたレパートリーはないし、味だって普通だろう。むしろ、デパートでお惣菜を買ってくるか、デリバリーで頼んだ方が美味しいに決まってる。
思い直して、別の提案をしようと口を開くと、電話の向こうから小さなため息が聞こえてきた。