記憶の中のヒツジはオオカミだったようです!
「本当に俺のために作ってくれるの?」
「え? そんなに驚くこと?」
不安に思っていたこととは違うコメントが出て、雪乃は拍子抜けしてしまった。
一体、自分はどういう人間に思われていたのだろうかと疑問が浮かぶ。
たしかに和人が言うように料理するのをめんどくさがるが、それは自分一人で食べる時だけであって、誰かの為に作って一緒に食べるのを雪乃は好んでいるせいだ。
時には、卓馬に作って共に食べたりもしていた。
「ただし、過度に期待しないでよ? あんたが食べてきたみたいな豪華な料理じゃないからね? 一般的に家庭料理と呼ばれるものだから」
「なんでも嬉しいよ。ヒナが俺の為だけに作ってくれるだなんて考えただけで」
「べ、別に、言ってくれればいつでも作るし……」
「ありがとう、ヒナ。できたら、俺の部屋で食べたいんだけどいいかな?」
「分かった。帰ったら、チャイム鳴らして。こっちで作って持ってくから」
「たぶん、二十時くらいに着くと思う。じゃあ、後で」
「うん、後でね」
無機質な電話の切れた途端、部屋の中の静けさが嫌になるほど耳につく。
朔が帰るまで残り時間は多い。
雪乃は冷蔵庫に近づくと、扉を開けて中を覗き込んだ。
この部屋に泊まることが分かると、卓馬は定期的に食材が届くようにしてくれるから、中身は豊富に入っている。 雪乃は、朔が昔なにが好きだったかを思い出そうとした。仲良く過ごしていた時に一緒に食事をしたことはあった。
時には、家庭科の授業で習ったばかりの料理を振る舞ったこともある。
いつも通りでいいかと考え直し、手始めにキュウリを取り出して、麻の袋からジャガイモを取り出してポテトサラダの準備をはじめた。