記憶の中のヒツジはオオカミだったようです!
「そんなわけないじゃん!? 俺が好意をもたれたいのはヒナにだけなんだから。まったく、ヒナは酷いよね」
そんな会話をその後も続け、リラックスした食事タイムとなった。
外での食事では、周りの視線や声で落ち着かずこうはいかなかっただろう。
余ったものにラップをかけ、洗い物を重ねて卓馬の家のシンクに運んでいると、朔が持ちきれなかった食器を運んできてくれる。
「ご馳走様でした。すごく美味しかったよ」
「それならよかっ……」
言葉にこもる思いは本物で、喜んでくれたことが嬉しくて朔の方を向くと、頬と言うには唇の端に近すぎる場所に彼の唇が軽く辺り、驚く間もなく今度は反対の唇の端にも押し付けられた。
「な、な、なんで」
朔の顔が離れていき、どうにか雪乃が声を絞り出すと、彼は首を傾げた。
「え? 挨拶だよ。ヒナも留学してたんだから、したことあるでしょ?」
「あるわけないでしょ! 私が留学してたのはアメリカだから!」
わなわなと震える手の甲で口元を隠して猛抗議すれば、平然とした顔で軽く自身の唇を舐めた。
「それに、ヨーロッパのキスの挨拶って、エアーキスで実際は触れないんじゃないの?」
アメリカの大学に留学していた時に、ヨーロッパの友人もいたがリップ音なだけで唇が当たったことはなかった。
「そりゃ、赤の他人やなんとも思ってない相手にはしないよ。ヒナだからね」
ゾクリッとするほど、熱のこもった目で見られて体の深くが脈打つ。朔が一歩進めば、それに合わせて雪乃も下がるがキッチンに逃げ場はない。
すぐに作業台に腰がぶつかり、前屈みになった朔が囲い込むように手をついて体を寄せてくる。