記憶の中のヒツジはオオカミだったようです!



「ねえ、さっきの話だけどさ。ヒナは昔の俺の方が好き?」

「はあ?」

「ヒナが好きなら、髪を染めたってパーマをしたっていいよ」

「な、何を馬鹿なこと言ってんの。そのままのあんたでいいに決まってんでしょ!」

 期待に答えなければ見てもらえない、相手にされないと思っているような不安そうな顔に、雪乃は両手で朔の頬を包んだ。
 髪の色が違おうが、瞳の色が違おうが、朔は朔である。

「んー、やっぱりヒナはいいな」
 
「ひゃっ!」

 囲いのようにされていた手が離れていったのはよかったが、代わりに頬を包んでいた手を取られて、手の平にキスされた。
 柔らかな唇の感触と初めての体験に、顔に熱が集まっていく。
 
「こうされるの気持ち悪い?」

 唇から離されたと思えば、ぎゅっと手を握りこまれた。
 聞かれて今更ながら思い出したが、こんなに逃げ場のない状況で手を掴まれているというのに、嫌な気分にならない。
 
「ううん、平気。ただ、緊張する」

 心臓はこれまで止まっていたんじゃないかってくらい、激しく鼓動を刻んでいて聞こえてくる気がしてくる。
 苦しいような、切ないような、不思議な感覚に、これまで書いてきたヒロインたちが思い浮かんだ。
 人の話や雑誌の特集なんかを参考にして書いてきたが、実際の体験をするのでは全く違うことに気がついた。

「なら、許して」

 言葉の意味を理解するよりはやく、朔はぐっと顔を近づけてくる。



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