記憶の中のヒツジはオオカミだったようです!
まだ帰っていないであろう彼の家に入ることに、変な緊張を覚えながら足を踏み入れる。
どこに居るべきか分からず、そわそわと歩き周りながら窓に歩み寄ると、卓馬の部屋からは見えない方角の景色が見えるが、山や森が好きな雪乃にはこの景色を好む人の心が理解できない。
眼下に広がるのはコンクリートの道と下から生えるビル。
ある緑は道路脇の街路樹だけ。もちろん、足を伸ばせば木々の生える公園はあるが雪乃の心を満たすほどのものではない。
コンクリートだらけの景色を見ていたら、無性にコテージに帰りたくなってきた。
近くにコンビニやスーパーがないという不便さはあるが、それを受け入れてしまえる別の良さがたくさんある。
ホームシックに近い感覚に陥っていると、スマートフォンが着信を告げた。
「もしもし?」
『おはよう、雪。もう起きてたのか?』
「あ……卓馬、おはよう。うん、朔と朝食の約束をしてたから待ってるところ」
『へー、オレのいない間に随分と仲良くなったな。もう、大丈夫なのか?』
「……大丈夫なんだと思う。二人きりでも平気だし」
『そうか。雪がそれでいいならいい』
電話の向こう側で、優しく微笑んでいるのが口調で分かる。
『吹雪も止んで、空港まで行けるようになったから、明日の昼の便が取れたからそれで帰るよ。お前の両親も一緒だよ』
「ありがとう、卓馬が一緒だと思うと安心できるよ……ひゃっ!」
『どうした、雪?』
雪乃は慌てて電話を服に押し付けて、首を押さえながら振り返ろうとした。
けれど、後ろから腰に両腕が回されていて動けない。