記憶の中のヒツジはオオカミだったようです!




 話しに夢中になっていて気付かなかったが、朔が戻ってきて首の後ろに口づけたのだ。思わず変な声が出てしまい気まずい思いをしているというのに、ぎゅっと腕に力を込めて抱きしめると耳をやんわりと噛んだ。

「ちょっ!」

「んんー、ただいま」

 耳にキスされることによって生じるリップ音は、朝聞くには相応しいものではなく、顔を真っ赤にする雪乃を尻目に、笑い声を上げながら腕の拘束をといた。
 自由に腕が動かせるようになって電話を耳に当ててみるが、聞こえてくるのは電子音だけですでに通話は切られている。
 
「もー、切られちゃったじゃん」

「どうせ、明日の昼の便で帰ってくるって話でしょ? 俺の方にメールが届いてたよ」

「そうだけど……」

「汗流してくるから少し待ってて。朝食はテーブルに置いてあるから」

 少し不機嫌そうに言葉を残して、バスルームへと入って行った。
 仕方がなく、キッチンへと入って皿を取り出し紙袋の中身を並べ、やかんでお湯を沸かしはじめる。
 マグカップはすぐに見つかったが、コーヒーや紅茶がどこかわからず、お湯が沸くのを待ってから卓馬の家に取りに行こうと玄関を目指すが、いつかを思い出す湿気が体を包んだ。

「どこ行くの、ヒナ」
 
 手首を掴まれ引き戻されると、お湯で温まった体に背中がぶつかった。髪を乾かしていない髪から垂れる水が、雪乃の首筋に落ちて背中を流れ落ちていく。




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