溺愛はいらない。
だけど、あんなに愛された日々を、そう簡単に忘れることはできなかった。
––それでも、少しずつ芯との思い出を風化させて、ふと思い出すこともなくなって来たというのに…
どうして今更…私の前に現れたの?
変わらない芯の姿。
180cmを超える長身に程よくついた筋肉。アーモンド型の瞳と整った眉に、スラッと伸びた鼻筋。顔だって、私が人生で出会って来た男性の中で一番格好良い。
あの時のまま。何も変わってない。私が好きだと言った、ダークブラウンな髪色だって。
「離してよ…っ」
苦しい。
もう嫌なの。
貴方といると、余裕がなくなるから。いつも大人な芯を必死に追いかけるのは辛いの。
芯は全力で私を愛してくれた。大切にしてくれたのもわかってる。だけど、私は自分に最後まで自信が持てずに、心のどこかで芯のことを疑ってた。
でも芯は、そんな私のことも見抜いていて、私と同棲することを決めたんだ。私の不安を取り除くためだけに。それがさらに申し訳なくて。まだ大学生で、まともに家賃や生活費でさえ払えない私なんかを、養ってくれた貴方のことが…どうしようもなく、好きだった。
溺れていたのは私の方。芯が好きで、好きすぎて、どうにか芯に私だけを見てもらいたくて必死で。
だけど自分と彼を比べて、勝手に劣等感を感じていた、私の汚れた心の奥。それを彼には悟られたくなくて、結局…全部芯のせいにして逃げた。
そんな最低な部分を知らない芯。
もう5年も経つのにね。
どうしてまだ、鮮明に思い出せるの?貴方と過ごしたあの日々を。
この人がいなければ生きていけないと、私に思わせたあの日々を。
頬に伝う雫が、雨なのか、涙なのか、もう分からなかった。