溺愛はいらない。



だけど、あんなに愛された日々を、そう簡単に忘れることはできなかった。

––それでも、少しずつ芯との思い出を風化させて、ふと思い出すこともなくなって来たというのに…


どうして今更…私の前に現れたの?

変わらない芯の姿。

180cmを超える長身に程よくついた筋肉。アーモンド型の瞳と整った眉に、スラッと伸びた鼻筋。顔だって、私が人生で出会って来た男性の中で一番格好良い。

あの時のまま。何も変わってない。私が好きだと言った、ダークブラウンな髪色だって。


「離してよ…っ」


苦しい。

もう嫌なの。

貴方といると、余裕がなくなるから。いつも大人な芯を必死に追いかけるのは辛いの。

芯は全力で私を愛してくれた。大切にしてくれたのもわかってる。だけど、私は自分に最後まで自信が持てずに、心のどこかで芯のことを疑ってた。

でも芯は、そんな私のことも見抜いていて、私と同棲することを決めたんだ。私の不安を取り除くためだけに。それがさらに申し訳なくて。まだ大学生で、まともに家賃や生活費でさえ払えない私なんかを、養ってくれた貴方のことが…どうしようもなく、好きだった。

溺れていたのは私の方。芯が好きで、好きすぎて、どうにか芯に私だけを見てもらいたくて必死で。

だけど自分と彼を比べて、勝手に劣等感を感じていた、私の汚れた心の奥。それを彼には悟られたくなくて、結局…全部芯のせいにして逃げた。

そんな最低な部分を知らない芯。


もう5年も経つのにね。

どうしてまだ、鮮明に思い出せるの?貴方と過ごしたあの日々を。

この人がいなければ生きていけないと、私に思わせたあの日々を。

頬に伝う雫が、雨なのか、涙なのか、もう分からなかった。



< 9 / 15 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop