嘘は輝(ひかり)への道しるべ
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 愛輝は拓真の退院の付き添いに来ていた。

 本当は病院には顔を出したく無かったのだが、夕べ拓真から電話で、退院の書類に家族のサインがいるから、どうしも来てくれと言われたのだ。
 なるべく早く手続を済ませ、のどかに会わないうちに帰ろうと思っていた。


「パパ準備は出来ている? 書類はどこ?」

 愛輝は慌ただしく病室を出ようとした。

 そんな愛輝に拓真がおだやかな目を向けた。

「愛輝、のどかちゃんが庭のベンチに来てくれって。なんだか、手術の事で話があるそうだ」

「えっ。もしかして手術決まったのかな?」

 愛輝は、のどかの手術の事が気になった。


「分からんよ。とにかく行ってやってくれ」


「うん。後でメールしておくね」

 愛輝は荷物に手をかけた。


「ちゃんと会って話聞いてやりなさい。お前に会えなくて、えらく落ち込んでいたぞ。何度も私の病室に探しに来ていたんだから。何があったか知らないが、私が退院すれば益々会う機会がなくなるだろう? 待っているんじゃないか」

 拓真が優しい笑顔を見せた。


 確かに拓真の言う通り、のどかとは自分の都合で会わないままだ。さよならぐらいはきちんと言わなくては……

 愛輝は覚悟を決めると病院の庭へと足を運んだ。

 庭のベンチに、のどかはまだ来て居なかった。

 芝生が青々しく光り、木々の緑色の葉も風に揺れ、ちらほらと患者達の散歩する姿があった。

 愛輝は中庭のベンチに腰を下ろした。

 真二がベンチに座りギターを弾いている姿が目に浮かんだ。


 愛輝は自分がどうすれば良かったのだろうか? と考えると涙が込み上げて来る。

 もう一度、真二に会って誤りたい、たとえ許してもらえなくてもいい。

ちゃんと、話がしたい…… 

でも、真二は愛輝を見る事も嫌なのだろう……


 愛輝が、唇を噛みしめた時だ。


「愛輝!」


突然後ろからの声に、愛輝は立ち上がり振り向いた先に、息を切らし真二が立っていた。

愛輝の目から又涙がこぼれ落ちた。

真二は愛輝の涙を見ると、愛輝の手を引き寄せ強く抱きしめた。


 愛輝は突然の事で、何が起きたのか分からない。


「ごめんね。私、騙すつもりなんてなかったの…」

 愛輝の事葉を遮るように、真二は愛輝の頬を両手で包むと、愛輝の唇に自分の唇を重ねた。

 愛輝は驚きと共に、体から力が抜けていく。

 愛輝からそっと離れた、真二の唇が優しく言った。


「好きだ…」


 愛輝の目から再び涙が落ちた……

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