嘘は輝(ひかり)への道しるべ
愛輝と真二はベンチに並んで座っている。
春の風が気持ちよく、二人を通り抜けて行く。
「ごめん… あの時は、俺気持ちが動転して… 酷い事を言っちまった。あの後、凄く後悔したんだけど、どうにもならなくて…」
真二は申し訳なさそうな目で愛輝を見た。
「私の方こそごめんなさい。何もしらないくせに、余計な事言っちゃって…」
愛輝の言葉に真二は少し間を置いてから、ゆっくりと口を開いた。
「リョウの曲は全部俺が書いた物だ…」
「『嘘』もそうだったのね」
愛輝の表情が少し嬉しそうになった。
「ああ…… リョウと俺は高校の時からバンドを組んでいたんだ。卒業した後もバイトしながら、ライブハウスで演奏していて、リョウはルックスも好いし、甘い歌声に結構人気もあったんだ。いつか、メジャーデビューしたいって話していた。
だけどリョウの奴、勝手に俺の曲でオーデション受けちまって、とんとん拍子にデビューまでしちゃったんだ。俺は、リョウのデビュー曲の事は諦めていたんだけど、突然リョウが現れて、曲を書いて欲しいって頭を下げて来たんだ。勿論俺は断った。
だけど、次の日、今の事務所の社長が来て、曲を作ればのどかの手術代を工面するって言われた。のどかの手術を出来る医者は日本に居ないって聞いていたし、すぐには信用しなかったんだけど… アメリカから医者を紹介してくれたり、検査出来る病院の手配までしてきて… 社長が本気だって分かったんだ。
のどかが歩けるようになるなら、俺はなんでもするって決めた」
真二の声は優しく、そして熱い目で愛輝を見た。
「そうだったの… 」
「お前には感謝している」
真二が愛輝の目を見て言った。
「何で私に?」
「『届かない涙』が思った以上の売り上げになったのは、ヒカリの共演のおかげだよ。そうでなきゃ、ここまでは売れなかった」
「そんな私なんて…」
真二の手が愛輝の肩に回った。
「別に、愛輝がヒカリだって分かったから好きになった訳じゃないからな」
真二は愛輝の疑いを解くかのように言った。
「ええ? ヒカリを好きなんじゃないの?」
「バカ! 愛輝を病院で見た時から気になっていた…… どちらかって言えば、ヒカリを見て愛輝に似ているなって思った……」
「ええ― 信じられない? 私なんかブスだし……」
「俺、おまえの事が好きだったから、スタジオでヒカリだって知った時、すげーショックで…… 愛輝が凄く遠くに感じて、全部が嘘に思えたんだ。それに、リョウの曲の事もばれちまって、どうにもならないと思った。冷静な判断が出来なかった。ごめんな……」
真二はそう言うと、愛輝の頭に手を回し唇を重ねた。
「私も、ずっと真二くんの事ばかり考えてた…… 嫌われたって思って…… 好きだったから……」
愛輝の目から溢れる涙を、真二の指が拭った。
「ゴホン、ゴホン。お取込み中の所お邪魔してよいでしょうか?」
のどかの声に、二人は飛び跳ねるように慌てて離れた。
「のどかちゃん、ごめんね。待っていたのよ」
愛輝が慌ててのどかへ笑顔を作った。
「二人とも手が掛かるんだから… 私はこれから手術で大変なんだからね。二人の世話まで見られないわよ。これからはちゃんと二人でやって下さいよ」
のどかは両手を腰に当てて言った。
「ええ―。のどかちゃん、手術出来る事になったの?」
愛輝は思わず声が上ずってしまった。
「ちょっとぉ、お兄ちゃん言ってなかったの? 今まで何話していたのよ」
のどかが口を尖らせている。
「ごめん、ごめん。色々話す事があって」
真二が頭を押さえて言った。
「おめでとう、のどかちゃん」
愛輝は本当にうれしかった。
「でも、手術はまだ先なんだけどね。本当に歩けるようになるなんて、まだ信じられないくらいよ」
のどかは、雲一つない空を見上げて言った。
希望に胸にふくらませ空を見ているのどかの姿に、愛輝も真二も幸せを感じていた。