嘘は輝(ひかり)への道しるべ
 愛輝は雑誌やCMの撮影、真二はアルバムのレコーディングと、お互い忙しい日々を送っていた。
 それでも二人は時間を作り、少しの間でも一緒に過ごしていた。
 町を歩く姿は、どこにでも居る普通のカップルに過ぎなかった。


 愛輝は撮影が早く終わり、真二との待ち合わせに胸を弾ませた。


「愛輝! 最近の撮影調子いいよね。何かいい事あった?」

 美香がヒカリの衣装を片付けながら言った。


「別にいい事って程じゃあ…」

 愛輝の顔に締りが無くなって行く。


「真二って奴とうまく行ったの?」

 美香が愛輝をチラリと見た。


「うん」

 完全に愛輝の顔が締りなく緩んだ。


「全く! あれだけ落ち込んでいたから心配したのに! いったい何がどうなったのやら?」

 美香がため息を着いた。


「えへへっ」

 愛輝が、両手で頬を覆った。


「えへへっ、じゃないよ。ヒカリで居る時には気を付けなよ。誰が見ているか分からないんだから」


「うん。祐介さんにも黙っていて。だって、しばらく近づくなって言われていたし…」


「無理だね!」
 
 美香は仕事の手を止めずに、あっさりと言った。


「えっ、どうして?」


「彼に嘘は通じないよ。もう、とっくに気付いていると思うけど…」

 美香の言葉に、愛輝は祐介の顔を浮かべ、まずいと確信した。


 駅の出口で、愛輝は美香と別れ真二との待ち合わせの場所へ向かった。。

 平日の午後、若者達がオープンテラスのカフェでくつろぐ姿や、楽しそうにショップの袋を下げて歩く女子達の姿も多い。


「あら、愛輝じゃないの?」

 突然、背後から声を掛けて来た声に振り向くと、高校の時の同級生の梨花子が立っていた。

 ミニスカートに淡いピンクのスプリングコートを華やかに着飾り、相変わらずキツイ目を愛輝に向けていた。
 その横に拓海の姿があった。

「久しぶりね」

 愛輝はあいまいな笑顔を向けた。


「ねえ、私達これからカラオケに行くの、一緒に行かない?」

 梨花子が嫌らしい笑を向けた。


「ごめんね。私これから用事があるの。急いでいるから」

 愛輝が向きを変え去ろうとしたのだが……


「私の誘いを断わるっていうの? どういうつもりよ!」

 梨花子の声が、イラつきを感じているのが分かる。


「あなたと行っても楽しくないでしょ? お断りするわ」

 愛輝は冷静だが、ピシャリと断った。


「なによ! いつからそんな口利けるようになったのよ!」

 梨花子の口調が激しくなった。


 まだ駅の入り口に居た美香が気付き、慌てて駆け寄ろうとした時だった。

 愛輝より数メートル先を歩いていた老婆が、何かに躓き転んだ。
 転んだ拍子にスーパーの袋から、買い物した品物が辺りに広がった。
 愛輝は迷わずに走り出した。


「話まだ終わってないわよ! 」

 梨花子が愛輝の手を掴もうと手を伸ばした。

 その手を力強く拓海が掴んだ。


「何するのよ!」

 梨花子が拓海を睨んだ。


「もうよせ! みっともないだけだ… 見てみろよ」

 拓海が愛輝が向かった先に目を向けた。


 愛輝は老婆を近くにあったベンチに座らせ、落ちた物を拾い集めていた。

 近くに居た若者達も、老婆に声を掛け、落ちた物を拾い始めた。



「いくら頑張っても、お前は愛輝には勝てないよ。俺達、もう終わりにしよう…」


「えっ! ちょっと待ってよ、拓海!」梨花子が拓海を引き止めようと声を上げたが、拓海は梨花子から離れ、老婆を助ける若者達に加わって行った。


 美香はその様子を離れた場所から、そっと見ていた。

 ヒカリでなくても、強く凛と構えた愛輝の姿を誇らしくもあり、そして、これから愛輝はヒカリとどう向き合っていくのだろうと、少し不安を感じていた事など、愛輝は気付かなかった。
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