HAZY MOON
「……梶先生。わたし……んっ」


言葉よりも早く、さっきよりずっと強く抱かれ、唇を奪われた。


熱い吐息に混じって、上手く息継ぎ出来なくて声が漏れる。


それを恥ずかしがっている暇も無く、


「……もう違う」


そう言って、梶先生は卒業証書の入った筒をチラリと見る。


「……卒業おめでとう」



さっきよりも優しい口付けで、こう囁く。
心も体も……じわっと熱くなっていく。



「……元教え子にこんなことして、いいの?」



恥ずかしさを誤魔化すように、わざと皮肉を漏らしてみれば、



「おまえは受け持ちじゃないからな」


「そういう問題っ?」


ククッと短く笑った梶先生が、呆れた表情を見せたわたしを楽しそうに見下ろしてる。


「楽しそう……」


「おまえはっ?」



わたしの顔色を窺うように、わざと間近に顔を寄せ尋ねてくる。


その表情があまりに柔らかくて、


「幸せ……かなっ」


思わずにっと顔を無防備にも緩めてしまった。



「いいな。笑顔。……昔と変わらない、夕希が望んでた顔」


柔らかくなった梶先生の瞳に優しい色が灯る。


「……あっ」



額に寄せられた唇。


何かおまじないでもかけられているんじゃないかって思うくらい、長くて甘い感触。
そしておまじないは、頬、首筋を通って胸元にまで施される。


「ま、待って……」


思わず父と母のお墓に目を向けた。
まるで二人に見られてるような気がして、目が泳いでしまう。



「……愛してる。雅晴の分も夕希の分も……ひっくるめて全部」





耳元から全身に広がる甘い囁きに、あっさりと黙らされてしまった。


お父さんの親友。
お母さんを支えてくれた人。


きっとこの人以上、わたしを想ってくれる人なんて現れない。


わたしの知らないお父さんとお母さんの思い出、いっぱい教えて?



そして、新しい思い出はわたしと一緒に……紡いでいこう。



お父さんとお母さんの分まで必ず、幸せになろう……一緒に。


Fin






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