黒の村娘といにしえの赤鬼
すると紫苑さんは目を伏せて何かを考え込んでいた。
しばらくしてから私に目を向ける。

「俺には分からない。俺の能力は相手の気を感じ取って心を読む。物心ついた頃くらいから感覚で使えたから東雲家の能力はどういった仕組みなのか分からない」
「そうなんですか…」

それぞれの家によって使い方が違うようで私は落胆した。

人間の村にいた頃そんな能力が自分にあるだなんて思った事も感じた事もない。
もし実の父さんや母さんがいたら力の使い方を教わる事ができただろうか。
それが叶わない今となっては、もしかしたらふみさんが何か知っている…?

それとも鬼王である時雨…?

…そういえば時雨は今どこで何をしているんだろう。


「あの、紫苑さん。最近時雨と会いましたか?」

いつも一緒にいそうな彼に聞いてみる。

「会ってる。それがどうかした?」
「えっと…なんというか私最近会ってなくて、その…」

会いたいです!
なんて絶対に言えないし、なんて言おう。

「素直に言えばいいのに」

紫苑さんが小さな笑みを浮かべながら私を見つめていた。
しまった…!
心の中を読まれたようだ。
あれ?
でも私時雨に会いたいなんて…。


「ち、違います!許嫁なのに中々会いに来ないからどうしたのかなーって思っただけですから!会いたいだなんてこれっぽっちも思ってないですから!」

首をぶんぶんと横に振りながら大慌てで否定した。
だって紫苑さん絶対嘘ついてる。
私の心読み間違えてる!


「ふーん」


意味ありげな表情をして私を見ている。
紫苑さんって無表情で掴みどころのない人だと思っていたけど、こんな顔もできるんだ。
今日は彼の意外な一面を知れて敵だとは思わなくなっていた。
紫苑さんは本当は優しい鬼なのかもしれない。
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