黒の村娘といにしえの赤鬼
その日の夜、私はいつもより上機嫌だった。
紫苑さんのおかげで書庫で本を読めるという楽しみが増えたから。
帰り際には鍵を一つわけてくれたから私一人でも行けるようになって尚更嬉しい。


「姫様、本日は何かいい事がありましたか?先程からお一人で笑っておられるようだったので」
「うん。私…ここで楽しく暮らせていけそうだなって」
「まあ、それは…」

私がそう言うとふみさんは感嘆するような声を上げた。

人間の村へ帰る事は諦めて心にぽっかりと穴が空いたような気持ちだったけど、鬼の世界で私が生きていく希望が見い出せた日だった。
私は時雨と祝言を挙げて時雨の隣に立つに相応しい鬼になれるように頑張らないと。
そのためには勉強あるのみ。

…あと一つ。
叶えられたらいいなと思う夢も見つかった。
母さんも昔思ったように人間の本来の姿というものを鬼の皆に伝えられたら…。

人間は悪では無いという事を…。


「ふみさん…私、頑張るわ」
「はい、私はいつでも珠々姫様の味方で応援しています」

彼女の穏やかな眼差しを見てほっと安心した。
ふみさんが支えてくれるならとても心強い。


あ、そうだ。
ふみさんに聞かなきゃいけない事があったんだった。
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