黒の村娘といにしえの赤鬼
次の日からというもの、私は毎日のように書庫へ通っては本を読み漁る日々を送っていた。
これから梅雨の季節に入るから尚更いい。
鬼の歴史や暮らしについてなど、ある程度は頭の中に入って、だいぶこの生活も板についてきた。
毎日こんなのんびりとした生活ができればいいなと思うけど、梅雨がきて夏が終われば秋。
時雨との祝言の日も近くなる。


「(婚約者って言い張る割には贈り物ばかりね…)」


婚約者にすると言われたあの日から時雨にはあまり会っていない。
祝言前だからなのかもしれないけど、それにしては私を放っておきすぎというか…。


「もし私がもっと素敵な人を見つけたらどうするのかしら」

「それって俺のことかな?」

「ひゃあ…!」


突然頭上から声がして上を向くとにっこりと笑った右京さんがいた。
ここは書庫。
右京さんは外へ出歩くことが多いし、書庫に足を運ぶような人でもないのにどうしてここへ来たのだろう。


「う、右京さんどうして書庫に…?」
「それはもちろん珠々ちゃんに会うためだよ。紫苑に聞いたよ。いつもここで本を読んでいるらしいじゃないか。深窓の令嬢…いや姫君って感じ?」
「そんなお淑やかなつもりではないんですけどね。というか、私に会いに来て時雨は怒らないんですか?」
「ばれたらそうなるだろうね。まあそんな事にならないようにするさ」
「はぁ…」


飄々としていていかにも右京さんらしいというか…。
この人は時雨の扱い方も慣れているように感じた。


「ところで珠々ちゃん、急なんだけどこれから外へ出かけてみない?」
「えぇ!?外にですか?」


急な提案に驚くも外に出られるという好奇心が湧いてくる。
でもこんなの時雨が絶対許すはずないし、ばれたら一体どうなるのだろうか考えると中々快諾はできそうもない。


「大丈夫!今日は時雨、村の外に出てるんだ。それに夕刻までに帰ってくればばれやしないって。俺がばれないように保証するよ!ねぇ、ずっと中に籠るのもそろそろ飽きてきたでしょう〜?」


迷ってる私の顔に自分の顔を近づけていつものようなにこにこ笑顔で迫ってくる。
顔が近すぎて咄嗟に手に持っていた本で自分の顔を隠してしまった。


「(ち、近いよ右京さん…)」


赤くなった顔を隠しながら端正な顔立ちのこの人の息遣いにドキドキしていた。


「あぁごめんごめん。ついいつもの癖でね。…でもやっぱり珠々ちゃんは可愛いね。時雨にはもったいないくらいだ」

私の反応を一通り楽しむとふっと体制を元に戻す。
こういう男の人は私は会った事がないからどうしていいか分からなくなる。

でも時雨に迫られた時とは少し違うような…。

確かにドキドキはしたけど、それは右京さんが美男子だから?
< 76 / 80 >

この作品をシェア

pagetop