黒の村娘といにしえの赤鬼
「では私はこれで…。おやすみなさ…」
「あ、待ってふみさん!」

襖を閉めようとする彼女を慌てて呼び止める。

「どうかされました?」
「あの…東雲家に伝わる癒しの力について何か知らないかなと思って。私にもその力があるならどうやって使うか教えてもらいたいの」

「癒しの力…」


ふみさんは上を見上げながら何かを思い出そうとしていた。
難しい表情を浮かべながら考え込んで、それから私に向き直る。


「申し訳ござません。使い方は私にも…」
「そうよね…」


やっぱり東雲家の者じゃないと分からないわよね…。


「…ですが、母君がその力を使っているところを見た事はあります。手をかざすと一瞬のうちに怪我が治っていたのです」

「手をかざして…」
「はい。私が分かるのはそのくらいでございます。お力になれず…」
「ううん。それだけでも十分よ。ありがとう」


それからふみさんにおやすみの挨拶をして布団に入った。


「手をかざすか…」

暗闇の中で自分の手を見つめてる。
試しに片方の腕にかざしてみるけれど当たり前だが何も起こらない。

「怪我をした部分じゃないとだめよね」

でも昔膝を擦りむいた時に傷口を手で触ってしまったことがあるけど何も起こらなかった。

もしかして私にはその力がない?
人間の中で過ごしていたから?

考えても分かるはずもなく、私は大人しく眠りにつくのだった。
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