黒の村娘といにしえの赤鬼
「ほらっ、早くしないと時間がなくなっちゃうよ!…断らないってことはいいって事だよね?じゃあ行くよ!」
「えっ!?ちょっと右京さん!?」


ぼーっと考え込んでいたところに急に手を引っ張られて現実に戻された。
私は手を引かれるままに外へ連れ出されると今度は強引に身体を支えられ、お姫様抱っこの状態に。


「右京さん、一体何を…!?」

「危ないからほら、首に手を回して」

「えぇ!?」


急かされるように私は右京さんの首に手を回すと、ものすごい力で身体が浮く感覚がした。
思わず目を瞑り、落ち着いたところで目を開けると…。


「わ、私飛んでる!」


眼下に広がるのは鬼の村に、連なる山々。
先程いた屋敷の庭園がとても小さく見える。

「どう?怖くない?」
「右京さんに掴まってるので何とか…。それよりすごく感動してます!こんな景色初めて見ました!」

まるで自分が鳥になったかのような感覚に私は子どものようにはしゃいでいた。
空からの景色の素晴らしさ、風の気持ちよさ、久しぶりに外へ出られた開放感に浸っていた。

と、同時にこれが右京さんの家に伝わる力…天高く跳べる脚力なのだと悟った。
超人の力を実際に体験するとそのすごさが身に染みて、改めて鬼の力の凄まじさを感じた。

しばらく飛んで降り立ったのは村のはずれ。
あんなに畑仕事をしていたのに土を踏む感触がとても懐かしく感じる。


「わぁ…本当に外に来ちゃった…!」
「これだけでも気分転換になったでしょ?珠々ちゃんにはやっぱり外に出た方が活き活きするかなと思ってね」
「私のために…ですか?」

わざわざ外に連れ出してくれたのだろうか。

「前に紫苑が、珠々ちゃんは太陽が似合うって言ってて。ここへ来る前は普通の村娘として過ごしていたんでしょ?だったら太陽の陽を浴びて、外の空気を吸うと喜んでもらえるかなと思ってね」
「右京さんまで…本当に嬉しいです。私なんかにこんな事してもらえるなんて…」


紫苑さんは本を見せてくれた。

右京さんは私に自由な時間をくれた。

何も無い日々の中で私に楽しみを与えてくれた彼らには感謝しかない。


「こちらこそ、喜んでもらえたようで良かった。祝言を挙げたら君はもうこんな事できなくなるかもしれないからね。俺的にも嬉しかったよ。ほんと時雨もたまにはこのくらいの自由をさせてもいいよね」
「まあ…なんだかんだ心配なんじゃないですかね。毎日忙しそうだし…」


贈り物を毎日するくらいだからそういう気持ちは少しはあるんじゃないかと思う。

でもやっぱり顔くらい見せに来てもいいよね?

これから夫婦になるっていうのに…。


そんな日々を送りながら過ごしていると、自室の襖が強引に開かれる。
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