そのプロポーズお断りします!
「悠里ちゃん、ピザかパスタ取ってあげようか?」と坂井先輩が私の顔を見る。

「あ、あのっ…今日はお腹を壊してて…
えっとそこの付け合わせのパンください。」
と牛肉の煮込みにも入っているとろりと溶けたトマトを見つめ、
そこに添えられたバケットを指差す。
…こんなにトマト料理が並んでいるのに、トマトが苦手だなんて、今更言えないし…

「お腹を壊してるんじゃしょうがないか。冷たいジュースもやめておく?」

「あ、油が強くなければ大丈夫だと思います。」と少し笑顔を見せると、

そっか。と私にパンを取ってくれ、隣の女子社員に煮込み料理を盛り付けて渡している。

私も取り分けしなくっちゃ。と気づいた時には
女子力の高い女の子達がトングを握って離さないって感じ。

今日は送迎会があるからか、
女の子はみんな春の装いで、明るめのワンピースや、柔らかい女の子らしい服装で、
思い思いの華やなアクセサリーなどをつけているけど、
私はいつものグレーのパンツスーツに水色のブラウスだ。
装飾品は母にもらった金色の細いネックレスだけ。といたってシンプルで、髪も黒く長めのボブって感じ。

仕事の事しか考えていなかったな…

もともと女子力低いかもとちょっと凹むけど、しばらく周りと談笑し、

ワインのボトルを持って、田沼さんのテーブルに向かう。


「田沼さん、1年半ありがとうございました。」と深々と頭を下げると、

「うん。悠里ちゃん。ありがとう。」と手を捕まれ、空いていた隣に座らされた。

私は手を握られ、真っ赤になるのが自分でわかる。

うーん。田沼さん、結構酔ってる?
もう少し早く来ればよかったかも…

田沼さんは酔うと、スキンシップ多目になる。
握った手の反対の手で私の頭を撫でながら、

「あいかわらず、ウブで可愛いねえ。
彼氏はまだいないの?」と酔った瞳で覗き込んでくる。

小学校から大学まで、女子校エスカレーターの私にそんなものはいない。

「…いません…」と俯いて答えると、

「…少し引き継ぎの話ががあるから、1次会終わって、1時間したら、カラオケ抜けてこの店の前に来て。今更、仕事の話じゃ周りに迷惑だから、内緒でね。」とふふと笑って私の手を離した。

私は手を引っ込めて立ち上がる。

「わかりました。」

…今日も会社を出る直前まで忙しかったし、引き継ぐことをおもいだしたんだろうな。


その時はそう納得して、席に戻った。





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