晴れのち曇り ときどき溺愛
「祖父が急に海外で仕事中に倒れた。母が明日の朝に海外に行くので俺は一緒に行くことになった。本来なら父が一緒に行くべきなのだろうが、諸事情があって動けないんだ」

 
 下坂さんはサラッと言うけど、その言葉の語尾が少し震えている。いつもは自信に溢れているのに、私の目の前にいる下坂さんは目の奥が悲しみで揺らいでいるように見えるけど今の私に出来ることなんて何もない。


「プロジェクトの件は見城さんと一緒に頑張ります。後は何か出来ることはありますか?」


 仕事に熱心で今回の新規プロジェクトに心血を注いでいた下坂さんがその全権を見城さんに預けるということの意味はこの数か月一緒に働いてきたから分かる。大事な仕事を手放さないといけない状況に今の下坂さんはいる。


「諸住さんの一時間が欲しい」

「え?」

「今から一時間だけ俺に付き合ってくれないか?」

「はい」


『なんで』とも『どうして』とも聞きたかった。でも、私は何も言わずにただ『はい』と答えた。私の一時間が欲しいと言うのならそれでいい。理由なんか何もいらないと思った。


「食事でも行きますか?車だから飲めないですよね。カラオケでも何でも付き合いますよ」

「車を走らせた気分なんだ。横に乗ってくれるだけでいい。自分でも勝手なことを言っていると思ってる」

「いいですよ。行きましょう」
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